どの国も「ロシアへの対応」が最優先事項のはずだが…

今回の岸田首相訪問が、英国世論でことのほか関心を呼ばなかったのはすでに述べた通りだが、それはボリス・ジョンソン首相にとっても同じだっただろう。

というのも、両首脳が会談した5月5日は折しも、英国の統一地方選挙の投票日に当たっていた。筆者が<キーウ電撃訪問はウクライナのためではない……英ジョンソン首相の英雄的行動のウラにある残念な事情>でも紹介したように、ジョンソン首相はコロナの行動規制のさなか、首相官邸で開かれたパーティーに参加したという、いわゆる「パーティーゲート事件」により、強い辞任要求に揉まれながらの日々を送ってきた。おそらく、岸田首相と会っている間も、選挙の情勢が気になって仕方がなかったのではないだろうか。

選挙結果を見ると、首相の人気低下、国政与党・保守党からの支持離れは明確なものとなった。伝統的に保守党が強いと言われてきたロンドンの複数行政区で票を次々と落とし、野党・労働党、自由民主党の躍進を許す格好となっている。

そうでなくても、英国やEU諸国にとって、ウクライナ危機への対応は今や国の最優先事項だ。ロシアによる侵攻後まもなく、ジョンソン首相はバイデン米大統領、マクロン仏大統領、ショルツ独首相の3人とオンライン形式で会談し、ロシアへの経済制裁について協議した。4月9日にはショルツ首相がロンドンを訪れて首脳会談を行い、その3日後にはキーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と直接対話している。

「平和ボケしすぎ」とみられてしまっている

岸田首相が英国を離れた直後も、フィンランドとスウェーデンの北太平洋条約機構(NATO)加盟を後押しすると発言。ロシアへの脅威から2カ国を守るため、NATO正式加盟までの間、英国が防衛支援を行うことで合意した。

このように、米英首脳がいま各国に求めていることは、ひとえに「ロシアをどう叩くか」に尽きる。そんな局面で、岸田首相はG7としての自国の役割は脇に置き、「岸田に投資を!」と訴えたわけだ。ウクライナに攻め込むロシアに対し、日本は地政学的に一定のリスクを抱えている国のはずだが、自国経済のアピールに終始する様子は「近隣国なのに日本は平和ボケしすぎ」とみられてしまっている。英国主要メディアが「岸田に投資を!」という言葉を軒並み無視したことからしても、その温度差は大きい。

筆者は英国に住んで15年になるが、今ほど戦争の脅威を身近に感じる日々はない。日本の国際的なプレゼンスが弱まっていることが指摘される状況で、最もアピールしなければならなかったのは自国の利益ではなく、ロシアとどう対峙するかの姿勢ではなかったか。同じ日本人として恥ずかしくなってしまう。

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