電撃訪問は世界中で賞賛を受けているが…

あまたの奇抜な言動で、常に物議を醸している英国のボリス・ジョンソン首相。先には、ロシアからの侵攻で危機の最中にあるウクライナの首都・キーウを電撃訪問し、メディアの度肝を抜いた。

2022年4月9日、ウクライナの市街地を歩くボリス・ジョンソン英首相(左)とウォロディミル・ゼレンスキー大統領
写真=dpa/時事通信フォト
2022年4月9日、ウクライナの市街地を歩くボリス・ジョンソン英首相(左)とウォロディミル・ゼレンスキー大統領

さすがG7の盟主的存在たる英国首脳が成せる業、と世界中で賞賛を受けているが、そもそもジョンソン首相には「違法行為で処罰された初の現職首相」という汚名がある。

英国で最も信頼されている世論調査機関のひとつYouGovによる「ジョンソン氏は首相として適任か?」と尋ねた支持率は、1月13日に22%まで落ち込むダダ下がりぶりで、「普段ならとっくにクビ」のはずだが、ジョンソン氏はなおも颯爽と首相の座に収まっている。もっとも、キーウ訪問直前に発表された4月7日付調査は29%まで回復している。これで次の調査で一気に支持率を上げたら「訪問の成果は上々」となるのだろう。

それにしても、なぜジョンソン首相は突然キーウを訪問したのか。異常ともいえる英国の現状について考察したい。

コロナにまつわる法的規制をすべて撤廃

まずは、英国の感染状況から見てみよう。日本でも猛威を振るっているオミクロン株の変異株「BA.2」はもともと英国が由来とされている。しかし、当の英国ではもはや、コロナについて深刻に捉える人は急速に減っている。オミクロン株の感染流行は確かにショックだったものの、ワクチンを打っていればほぼ重症化しないと分かってきたことで、1月にはマスク着用義務が撤廃された。人々はコロナの感染リスクについて気にせず、より自由に暮らすようになっている。

さらに、ジョンソン首相は2月24日をもって、新型コロナ感染者に対する隔離撤廃など、「新型コロナとの共存戦略」を発表。コロナにまつわるすべての法的規制を終了した。これにより英国は、水際対策を完全撤廃するとともに、検査で陽性になろうが、濃厚接触者と認定されようが、隔離は一切行われなくなった。これは、3回目のワクチン接種を徹底的に促したことで、感染者数の減少と重症化率の低下が着実に達成できたことによる。

ジョンソン首相が打ち出した「新型コロナとの共存戦略」は、全世界に先駆けて発表されたものだ。共存でも良いから、一日でも早く元の生活に戻りたい、と考える人々から拍手喝采を浴びた首相は、一般市民から改めて大きな支持を受けたかのように見えた。