東京オリンピック陸上100メートルの日本代表が学校にやってきた
12月上旬、白い北アルプスをのぞむ信州・松本のある小学校でかけっこ教室が行われた。
午後12時30分、体育館に集合した5年生35人が軽い準備体操で体をほぐした。体育館の対角線に25メートルのレーンが作られている。お手本を見せる20代の男性が走ってみせ、瞬く間にゴールへと到達した。わずか3秒ちょっと。角に立てかけたマットに勢いよく突っ込んで止まった。
「すごい!」「速い!」。見たことのないスピードと、美しいフォーム。生徒はみな感嘆の声をあげた。
それもそのはずだ。デモンストレーションしたのは、正真正銘のオリンピアンだったのだ。今夏の東京オリンピック陸上100メートルと400メートルリレーの日本代表・小池祐貴選手だ。
小池選手と関係スタッフはその後、スタート地点とゴール地点に置かれた測定器とタブレットで、生徒たちが走るところを撮った。
「いけいけ、がんばれ」。クラスメートの声援を受けながら、一人ずつ全力疾走。ゴール地点でストップウォッチを持つ担任の先生がタイムを告げる。「4秒75」「4秒96」……。生徒は自分のタイムをワークシートに書き込んでいく。
各自が持っているタブレットには、自分のスタート時の画像とともに、さっき走った小池選手の画像も送られる。そして、体育館内に設置された大きなモニターではスタッフによる専用の動作解析アプリを使った画像の比較説明が始まる。
「スタートしたときの自分と小池選手はどこが違うかな。『分度器マーク』を押してね。どれくらい前かがみになっているのか。肩の位置と体育館の床に水平になるように線がでてきたかな。小池選手と角度はどれくらい違うかな」
続いて、今回、小池選手に同行した順天堂大学准教授(スポーツ科学)の柳谷登志雄さんが解説する。
「スタートの姿勢、小池選手は前側に倒れているよね。でも、みんなは起き上がってる。(小池選手は)頭も低い位置だよね。前足よりも頭が前に出てるでしょ。だれかにちょっと押されたら出られるぐらいの意識です」
最後はオリンピアン小池選手の登場だ。
「スタートは倒れながら出るのがポイントです。“よーい、ドン”と言われてから、体を倒して走り出すと、もったいない時間が生まれてしまうんです。だから、ぼくは最初から倒しておきます。100メートルは特にスタートが大事です」
生徒は目をキラキラさせて、話を食い入るように聞いたのは言うまでもない。