なぜ端末を使ってかけっこをすると速く走れるのか

オリンピアンによる「速く走るためにはどうしたらいいのか」というテーマの特別授業は続いていた。班ごとに分かれた生徒は、小池選手と自分たちの「違い」を話し合う。どこを改善したらいいのか。そのためには練習で何を意識すればいいのか。それらをワークシートに書き込んで整理する。

柳谷先生と小池選手は各班をまわって、課題を確認しアドバイスを送った。そして20分ほど課題克服の練習をしてから、もう一度タイムを計る。

タイムが縮まった子、逆に遅くなった子もいた。全員が速くなるわけではないから、実証実験は面白い。トライアルアンドエラーを重ねていく。

子供たちの感想だ。

「前かがみとか、練習はためになりました。オリンピック選手を生で見ると、ものすごく速い。かけっこが好きになりました」
「スタートダッシュの姿勢を低くすること。もうちょっと早く走れると思う」

柳谷教授は練習の尊さを説いた。

「先生(小池選手や柳谷教授本人)の話をきちんと聞くと理論があって、効果がある。その通り練習をすると速くなる。今日もたったこれだけの時間で速くなったでしょ」

小池選手はもう少し早くなりたいなと思うことが大事だよ、と笑顔だ。

「タイムが伸びてうれしかったとか、ちょっとでもワクワクしたなら、ぜひ続けてもらえたらと思います」

最後に記念撮影と、子供たちと一緒に20メートルを走った。小池選手は手加減なしだ。

集合写真
撮影=清水岳志

この日のかけっこ教室では、タブレットで画像を撮って、スタートのフォームの角度を見比べた。スティーム教育的な観点でいうと、テクノロジーとマスマティクス、エンジニアリングの要素を含んでいる。

かつては教師の言うことを一方的に聞くだけの教育が主流だった。このかけっこ教室は一流アスリートから直接ノウハウをアドバイスしてもらい、それをもとに子供たちで話し合い、共有し、咀嚼し、最後の計測という結果でアウトプットさせた。貴重な経験になったはずだ。

小池選手にとってもかけっこ教室は有意義だったようだ。

「競技者になって、“仕事”になると走ることが楽しいっていう気持ちが薄れてしまいます。かけっこは楽しい。今日、思い出しました。楽しくないとパフォーマンスも落ちていきますからね。子供たちには、得意なことを早いうちに見つけて好きになってもらいたい。スポーツに限らず好きなことに触れていってもらえたら」

全国の中学・高校・大学の授業・部活でスティーム教育を働きかけている山羽社長はこう語る。

「スポーツには遊びの要素と競争という2つの要素があります。好きなことをするので、主体性を醸成しやすく、競い合って勝ち負けを決めるので目標が設定しやすい。試合をやるたびにフィードバックをするので、課題点もわかります。スポーツはスティーム教育に合っていますね。今後、トップアスリートのVR映像を活用した教材も作っていきます」」