「北アルプスに近い信州の小中一貫校」から開成・慶應に受かるワケ
一方、才教学園のスティーム教育はスポーツだけではなく多岐にわたる。
5年生はプログラミング教材を使って、レゴで自動運転の車を実際に生徒自身が作る。6年生はNPO法人の国際ボランティア学生協会のサポートで避難所作りを体験した。
7年生はガラス乾板を現代のテクノロジーで復元し、フィルム写真の撮影、現像体験や写真を撮るテクニックなども学ぶ。これは理科の「光」「レンズ」の学習からの発展形だ。
8年生は日本の伝統文化のひとつである和菓子と、室町時代から続いていて近年のエコへの関心の高さから脚光を浴びている風呂敷を作る。日本文化を海外にどう、広めていくかを考える。
巣山孝弘教頭はこう語る。
「これらは地元を含む企業の皆さんや地域の人たちとコラボしてテクノロジーを活用した授業をさらに展開していきます。そうした学びをどうアウトプットしていくか。成果は文化祭やプレゼンコンテストで発表します」
才教学園では1~4年は平日25分間、英会話の時間がある。そして5、6年生では週3コマの英語の授業がある。こうした充実したカリキュラムをみて、学力水準が高い子供たちが集まってくる。
注目されるのは子供たちの進学先だ。
1学年のうち約3分の1の生徒は、難関大学への進学実績の高い県内1、2位の進学校、長野高、松本深志高などの県立校へ進む。学年の5割が松本深志に合格した年もあったという。
首都圏の私立校への合格者も少なくない。開成高、慶應義塾高、豊島岡女子校といった難関校のほか近畿圏、海外への進学者もいる。こうした現象は、かつてはなかったものだ。
卒業生の中には理Ⅲを含む東京大、一橋大、国公立医学部大へ進んだ者も少なくない。
「基礎学力のある生徒が多い、ということもありますが、私たちが大事にしている人格形成の効果もあるかもしれません。人の話に耳を傾ける素直さ。そして謙虚にコツコツ努力をすること。スティームをやって生徒たちはより前向きになりました。来年は何をやるんだろう、と楽しみにしています。物事を多角的に、視点を縦横、斜めから見られる。国語的にも算数的にも理科も社会も。柔軟な思考は受験に生きると思います」(巣山教頭)
小松校長も目を細めて言う。
「上位の高校に行ってもらいたい、という希望がないと言ったら嘘になります。でも、入る高校は結果なので。生徒が行きたい高校へ後押しするのがわれわれの役目。そこに合格してもらうことが一番、うれしい。テクノロジーを使った外部の教育事業者の皆さんとコラボをしてスティーム教育をやりだしてから、子供たちの顔のきらきら感が違ってきました。生徒が学ぶことって楽しい、と気づき、その学びを深めて自分に備わっている力や才能を見つけて、強化していく。そのサポートをしていきたいと思います」
強いられる学びではなく、楽しいから学ぶ。スティーム教育の効果で、一度不祥事で転落しかけた信州の小さな小中一貫校はさらに飛躍するかもしれない。