五輪選手が信州の小さな小学校にやってきた理由

なぜ、五輪選手がわざわざ地方の小さな小学校にまで足を運んだのか。

この学校は、才教学園小中学校(松本市)。1学年30~50人で、中学生にあたる7~9年生を含め、全校生徒350人。地元松本のほか、近隣の市である諏訪、安曇野などから生徒が電車やスクールバスで通学する。1年生も9年生も一緒に通学して親近感が醸成される。

2005年の創立以降、順調に市民に認知されていった。

ところが8年前の2013年、突然、大きな問題が持ち上がる。あろうことか、教員免許を持っていない人物が教壇に立っていたことが発覚したのだ。当時の経営陣は退陣し、現校長の小松崇さんが赴任して必死に再建を図ってきた。小松さんはこう語る。

「私が赴任して以降、特に大事にしている3つの教育方針があります。それは、学ぶ力を高める。人格を高める。そして、未来の力を育てる、です。未来の力を育てるために、テクノロジーを使って価値あるものを作る能力を子供たちにつけたいと考え、さまざまな教育手法を研究しました」

その中で、着目したのが「スティーム教育」だ。STEAM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Arts:芸術、Mathematics:数学)の視点を教育現場にも加え、新たな“学びの場”を作り出そうという試みだ。

学校の体育や部活に、PCやタブレットなどデジタル端末を導入し、児童・生徒自身が考えて取り組むことで、学び成長していく。

大きなモニタで解説
撮影=清水岳志

そうしたスポーツを起点としたスティーム教育の教材を開発し、地域・学校に独自のソフトやノウハウを提供している「STEAM Sports Laboratory」(以下STEAM Sports、東京都港区)から今回、かけっこのプランの提案があり、実践したというわけだ。

小池選手は、STEAM Sportsの山羽教文社長から協力を打診され、即了承した。

「(オファーの)資料を見せていただき、これは僕が陸上競技の技術向上の際にやってきた動作解析の考え方に近く、思考しながら競技に取り組む心構えにも共鳴できたので、自分のこれまでの経験を教えられると思いました」