※本稿は、橋本健二『東京23区×格差と階級』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
23区のなかでもっとも所得水準が高い港区
都心3区は所得水準の高い地域であり、千代田区、中央区、港区の1人あたり課税対象所得額(2019年)は、それぞれ23区のなかで2番目、4番目、1番目に高い(3番目に高いのは渋谷区)。
そこで年収1000万円以上の世帯が全世帯に占める比率の推定値を示したのが、図表1である。
年収1000万円以上世帯比率推定値の高い地域は、千代田区西部の山の手地域から、赤坂御用地のある港区元赤坂2丁目をはさんで港区の北部へと広がっている。もっとも推定値が高かったのは港区麻布永坂町(42.1%)だった。
人口は222人と少ないが、有業者に占める専門職と管理職の比率がきわめて高かったため、こういう結果となった。この地域は飯倉片町交差点の近くから坂を下ってすぐの場所にあり、緑の多い閑静な住宅地だが、一部はマンション化している。
古風な地名は江戸時代から続くもので、すぐ隣の麻布狸穴町とともに、住居表示の実施によって消滅の危機に立たされたが、この町に、妻で昭和を代表する名女優の高峰秀子とともに住んでいた、映画監督の松山善三らの反対運動によって残されることになった。ここから坂を下りたところが、麻布十番である。
(*1)今回の年収1000万円以上世帯比率の推定では、例外的に高所得世帯比率の高い地域や低い地域に関しては、推定の精度が低くなる。市区町村別の統計を基礎に推定しているため、市区町村の所得水準や所得分布の幅に収まらないような特徴的な地域については、正確な推定ができないからである。港区の高所得地域で、年収1000万円以上世帯の比率が20%台後半から40%台と、一般的な感覚より低くなっているのはこのためである。しかし、それぞれの町丁目の相対的な高さ、低さについては正確に推定されていると考えられるので、地域の空間構造を明らかにするという目的からすれば問題はないだろう。