足立区は東京23区で平均年収がもっとも低い特別区だが、そのなかにはポツンと孤立する高所得地域がある。早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授は「足立区の千住曙町や新田3丁目などの地域は、隣接する地域に比べて平均世帯年収推定値が200万円以上多い。これらの地域は大規模工場の跡地に高層マンションが建設されたため、高所得地域になっている」という――。(第1回)

※本稿は、橋本健二『東京23区×格差と階級』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

大きな窓のカーテンを開ける女性
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千代田区で平均世帯年収推定値が低くなっている“特殊な場所”

東京23区の空間構造は、「中心と周縁」「東と西」という2つの対立軸によって特徴づけられる。しかしもうひとつの特徴も見逃せない。

それは東京23区の空間構造が、この2つの対立軸に沿っているわけではない地域があちこちに分散していて、かなり複雑だということである。これは図表の1と2をみれば明らかだろう。

都心にも、また西側にも、所得が低い地域がある。東側にも、所得が高い地域がある。ときおり所得の高い地域と低い地域が隣り合っている。法則性から外れる地域のなかには、特殊な事情をもった地域もある。

千代田区千代田は、その典型例である。東京23区のちょうど真ん中、皇居の位置に、平均世帯年収推定値が低い場所があるのに気づいた方もいると思うが、これが千代田区千代田である。

人口は98人で、世帯数は97世帯。世帯の内訳は、親族のみ世帯が1世帯と、単独世帯が96世帯。年齢は10歳代後半から30歳代が大半で、40歳代から50歳代が3人。

そして80歳代が男女1名ずつ。労働力状態は、不詳が2人、雇用者が96人。雇用者のほとんどは、公務に従事する保安職である。おわかりだろうか。親族のみ世帯を形成している高齢の2人は天皇と皇后(調査当時、現在は上皇と皇太后)であり、残りは皇宮警察学校の学生(身分は警察官)と関係者で、寮で1人暮らしをしているのだろう。

若年者が大半で、しかも所得水準が高くない保安職ということから、所得推定値が低くなったのである。