「僕は演歌が好きだからこの人達の取材をしたわけじゃない。何十年も黙って歌い続けてきた人達にパワーをわけてもらいたいだけなんです」

スナックや健康ランド、公民館や路上で地道に歌い続ける無名な「インディーズ演歌」の歌い手達、その人生模様を追った都築響一さんはこう語る。

つづき・きょういち●1956年、東京都生まれ。現代美術や建築、デザインなどの分野で編集・執筆を行う。『TOKYO STYLE』など著書多数。写真集『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真は東京・中野のイベント会場の舞台袖で撮影したもの。右端がみどり○みきさん。
都築響一●つづき・きょういち 1956年、東京都生まれ。現代美術や建築、デザインなどの分野で編集・執筆を行う。『TOKYO STYLE』など著書多数。写真集『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真は東京・中野のイベント会場の舞台袖で撮影したもの。右端がみどり○みきさん。

派手な衣装とウィッグを身にまとい地元のカラオケ喫茶を中心に活動する「足立区のレディー・ガガ」みどり○みきさん、老人ホームを慰問して回る「清掃車ドライバー兼演歌歌手」大門信仁さん、雨の日も風の日もJR巣鴨駅前に立つ「路上シンガー」裕力也さんなど、17人の「演歌ひとすじ」な生きざまが描かれる。歌い手は自費を投じてCDを制作し、それを自ら売り歩く。お金や生活のすべてを演歌に捧げる人も多い。

「ここに登場する人達は、プロより優れた歌の技術を持っているわけでも、名の知れた作詞家や作曲家に曲を頼めるわけでもない。つまり、ヒットを望めるわけがない。いわば始まる前から負け戦なんです。しかも自費制作だから、何百万というお金がかかっている。普通だったら年金でのんびりしていればいい歳なのに、お金をかけてケモノ道に突っ込んでいく。それは一体どういう人達で、何故そんなに真っ直ぐに歌の力を信じているんだろうと気になった」

本書の最後に登場する秋山涼子さんは20年以上もキャンペーンを続けている。車中泊を繰り返しながら、地方のカラオケ喫茶を回る。乗り潰したワゴンは計7台。同行取材をした都築さんが思わず「大丈夫ですか」と問うと、涼子さんは「毎日こんなもんですから」と軽く返す。

「一般的に見たら、この人達は『負け組』でしょう。お金を持っているわけでも、尊敬されるわけでもない。でも、僕が書きたかったのはお涙頂戴の物語じゃない。毎日苦しいと思ってるんじゃなくて、楽しくやっている人達を選んだんです」

都築さんがインディーズ演歌の歌い手達に魅せられたのは、一般的な成功の尺度にとらわれず、妥協せずに自分自身を貫いてきたその姿ゆえだった。

「この人達は誰の評価も求めてない。そういう人達って、本当に強いんです。周りがよかれと思って言うことに、いかに耳を塞いで真っ直ぐ進むか。それが人生においては重要なことだと思う。自分だって、心が弱っているときに誰かの説教は聞きたくない。黙って自分の好きなことをやり続けてきた人達を見ることほど、自分を勇気づけてくれることはないと思います」

(佐藤 類=撮影)