英語を公用語にする企業が増えている。しかし――「日本人だけの取締役会で英語で話してもママゴトのようなものでしょう。必然性がなければ続かないと思います」。にこやかにそう語る横山研治教授にとって、英語を話すことが必然となったのは、44歳にして留学生数日本一の大学に赴任したときのこと。それまでは英語と無縁の生活だった。

国連総会のような大講義室で、数百名の学生を相手に90分間、英語で授業を行う。最初のころは丸暗記したりメモを盗み見たりしてなんとか授業をこなしていた。「いつ化けの皮がはがれるか、戦々恐々としていました」。それがいま、縦横無尽に教室を動き回りつつ、学生たちから意見を引き出す「白熱授業」を展開する名物教授となった。

よこやま・けんじ●1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌編集記者、専門学校講師などを経て、2000年に立命館アジア太平洋大学教授に就任。現在、同大学国際経営学部長。日英2カ国語で行う授業が人気。専門は貿易論、貿易制度論。経営学博士。
横山研治●よこやま・けんじ 1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌編集記者、専門学校講師などを経て、2000年に立命館アジア太平洋大学教授に就任。現在、同大学国際経営学部長。日英2カ国語で行う授業が人気。専門は貿易論、貿易制度論。経営学博士。

留学経験もなく、英会話教室に通ったこともなかった横山教授が手探りでたどりついた英語学習法が、「リハビリテーションメソッド」。コンセプトは明快、「口の筋肉を動かすことで、すでにあるはずの英語力を目覚めさせる」だ。

「私たちの英語力はゼロではありません。それどころか大学もあわせると10年も勉強している。さらに社会人になってからも学校に通っている人もいます。そうやって努力してもなかなか思うように英語が出てこないなと思っている人が多いのではないでしょうか。そういう人たちにこそこのメソッドをためしてほしい。頭で覚えるだけでは、英語は算術級数的にしかうまくなりません。1+1=2の世界です。でも口の筋肉を動かすと脳が活性化して、2が4に4が8に、というように幾何級数的に上達するという実感が得られます。1日5分でも10分でも続けてやっているとある日するっと“英語のかたまり”が口から出てくるようになります」

過去に学んで頭に入っている英単語が自然に思い出され、脳が勝手にそれを組み合わせてくれる感覚なのだそうだ。

本論に入る前に、40ページ近くを割いて「英語以前」の話を書いた。

「コミュニケーションは、言葉以前の要素が8割とも9割ともいわれています。感情や表情、環境や関係性といったものが非常に大事なんです。私は会議のときに同僚のイギリス人教授の通訳をやるのですが、よくすらすら訳せるねと言われます。種明かしをすると、私は彼としょっちゅういろんな話をしているんですね。だから次にどんなことを言うか、だいたいわかるんですよ」

横山教授の言う“情の根回し”。TOEICの得点よりもこちらのほうが効く場合もある。

(澁谷高晴=撮影)