※本稿は、田中周紀『実録 脱税の手口』(文春新書)の一部を再編集したものです。
洗脳され占い師に1億円を貢いだ30代女性
強欲極まりない女占い師にマインドコントロール(洗脳)され、風俗店などで稼いだ1億円超のカネを貢いでいた30代の女性が、東京国税局の税務調査をきっかけに、洗脳状態から解放されるという、何とも笑えない調査事案がある。
洗脳された当事者にとってはさぞ深刻な事態だったことだろう。手口自体は単純無申告で、マインドコントロール下に置かれた女性に仮装・隠蔽の意図はない。そこでこの事案は当事者をA子さん、占い師をX子と匿名扱いとする。
1982年12月に群馬県内で生まれたA子さんは、幼い頃から「両親に愛されていない」と感じ、他人に対する不信や自己否定、孤独などを強く感じながら育った。
21歳の04年3月に“できちゃった結婚”し、地元で暮らしていた彼女は同年8月に長男、06年6月に長女を出産したものの、08年6月には離婚。2人の子どもの親権はA子さんが持った。
離婚から半年後の08年末、人生に行き詰まりを感じ始めたA子さんは、人気の女性ファッション誌に広告が掲載された占い相談「カッシーニ」(仮名)に電話する。相談料は1分間210円。この時、A子さんからの相談に応対したのが、東京都港区内に住む占い師のX子だった。
A子さんはこれ以降、シングルマザーの自分が子どもを養っていく方法や、長年患っている過食嘔吐の症状、さらには男女関係の問題など、何かにつけてX子に相談するようになる。
「私を敵に回すと何が起こるか分からないよ」
09年に入ると、A子さんはほぼ毎日X子にメールを送り、電話相談も週2回程度行って、その度に数万円の相談料を支払った。同年10月、彼女はX子のアドバイスに従って2人の子どもを元夫に預け、東京都内で一人暮らしを始めた。
X子に紹介された飲食店でアルバイトとして働き始めると、同月末にはX子からのアドバイスを受け入れ、2人の子どもの親権を元夫に譲り渡した。
そして10年になると、頃合いを見計らっていたX子は、本格的にA子さんのマインドコントロールに取り掛かった。
「10代の頃に一度吸ったマリファナのせいで、あなたの脳細胞は破壊されている。職場の人たちもあなたを嫌っていて、あなたの味方は私だけ。私を頼れば状況は良くなるけれど、敵に回すと何が起こるか分からないよ」
孤独感に苛まれ、何一つ疑うことなくX子の発言を受け入れるようになったA子さんは、脅迫とも受け取れるこうした言葉をX子から日常的に浴びせられた結果、「味方はX子さんだけ」と信じ込むようになった。