2019年10月、お笑いコンビチュートリアルの徳井義実さんが1億円以上の所得隠しを指摘された。2009年には脳科学者の茂木健一郎さんも約4億円の所得隠しを指摘されている。フリージャーナリストの田中周紀さんは「2人の所得隠しは高額だが、刑事告発はされていない。そこには明確な線引きがある」という――。(第2回)

※本稿は、田中周紀『実録 脱税の手口』(文春新書)の一部を再編集したものです。

設立した会社が申告漏れを指摘された問題で記者会見するお笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実さん(中央)=2019年10月23日、大阪市中央区
写真=時事通信フォト
設立した会社が申告漏れを指摘された問題で記者会見するお笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実さん(中央)=2019年10月23日、大阪市中央区

納税意識がなかったチュートリアル徳井の“税逃れ”

「(税金を)払う意思はあるのだが、私の想像を絶するだらしなさ、ルーズさによって『やります、やります』というのが1日延び、1週間延び、1カ月延びという状態で3年経ってしまった」

人気お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実氏(44)は2019年10月23日深夜、大阪市中央区の吉本興業本店・大阪本部で開いた記者会見で深々と頭を下げた。

高額のギャラ(報酬)に対する節税を目的に、09年に設立した個人事務所による法人税の無申告と所得隠しを、同日の民放のニュース番組が大々的に報道。同氏は約40分間釈明に努めたが、その直後から“納税意識ゼロ”を示す新たな事実が次々と発覚する。

世論の厳しい批判を浴びた同氏は、会見からわずか3日で芸能活動自粛に追い込まれた。テレビなどメディアへの露出度が高い芸能人や著名人、さらには芸能事務所による“税逃れ”は、これまでもたびたび報道されてきた。

単なる経理ミスによる「申告漏れ」を、意図的な仮装・隠蔽行為を伴う「所得隠し」や、国税局査察部が刑事告発する悪質な「脱税」と十把一絡じっぱひとからげにした粗雑な報道は、いまだにワイドショーやスポーツ紙などで散見されるものの、近年はさすがに影を潜めつつある。

なぜ無申告額が1億円を超えているのにマルサは動かなかったのか

だが、徳井氏に対しては「無申告額が1億円を超えているのに、なぜマルサは動かないのか?」と大ブーイングが起きた。

実は査察部は10年近く前まで「単純無申告」、つまり所得を全く申告していない事案を取り扱っていなかったが、11年度の税制改正によって、仮装・隠蔽を伴わない単純無申告事案も金額次第で刑事処罰の対象となり、それ以降は査察部も積極的に告発している。

ここではなぜマルサが同氏を強制調査の標的に据えなかったのかを考えてみよう。