手書きの帳簿で経費を水増ししていた人力舎

人力舎では創業社長が、所属芸人に支払う報酬額を手書きの帳簿で一括管理。実際に支払った報酬額よりも多めの金額を表の帳簿に記載して経費を水増しした上、水増し分はまだ実入りの少ない若手芸人に渡していた。

09年9月期までの4期に隠した所得は約2億4000万円に上ったが、告発は10年6月の社長急死で見送られ、同社は10年10月に重加算税を含めて約1億円を追徴課税された。

隠した所得は税務署が把握している銀行口座で何の工作もせずに保管されており、関係者の間では「いかにも真面目で苦労人の社長らしい」と話題になった。

この他にも1970年代から80年代初頭にかけて数々の大ヒット曲の制作に携わった音楽プロデューサーW氏が、自ら会長を務める芸能事務所の所属タレントのイベント出演料を「ご祝儀」として現金で受け取って着服したり、私的な支出を事務所に付け回したりして所得を隠した。

事務所の所得隠し額は13年5月までの2年7カ月間で約1740万円、追徴税額は約700万円と少額だったが、ギョーカイにはこうした悪習がいまだに残っていることに驚かされた。

所得隠しがあってもバレ元スキームだと判断されなかった茂木健一郎

徳井氏と同様に所得を全く申告していなかったのが、09年11月に報じられた脳科学者の茂木健一郎氏だ。

同氏は08年までの3年間、ベストセラー書籍の印税やテレビ出演料、講演料など合計約4億円の所得を申告せず、無申告加算税を含めて約1億6000万円を追徴課税された。同氏には年間約1000万円の給与収入以外に前述した雑収入があり、同氏自身も確定申告の必要性があることを認識していた。

だが税理士の知人もおらず、多忙だったとして、所轄税務署からの指摘を放置した。国税関係者が解説する。

「個人に支払われる報酬は法定調書として、報酬額と源泉徴収税額が税務署に報告されるため、確定申告を免れることはできません。ただ、税務署は法定調書で無申告の状態を把握できているので、金額が大きくても申告を免れる意図はないと判断されるのです」

実は徳井氏の無申告も、東京国税局は茂木氏のケースと同様と見做し、意図的な無申告=バレ元スキームとは判断しなかったようだ。これに対して、ある芸能プロ関係者が疑念を示す。

はなから節税目的で個人事務所を設立しているのだから、徳井が税金に無知だったとは言えない。それにいくら『ルーズだった』と釈明したところで、申告納税制度に反する行為であることに変わりはなく、無申告額も1億円を超えている。マルサが無申告を摘発できるのなら、なぜ強制調査に着手しないのか?」