まさに絶好のカモだった

さらに「あなたの借金額が膨らんでいる」というX子の嘘に煽られたA子さんは12年5月以降、店の通常サービスとは別料金のオプションサービス(いわゆる本番行為)を行ったり、月に数回は閉店後の深夜に客と落ち合い、個別のサービスを行ったりした。

A子さんのオプションサービス料は一回当たり4万2275円。12年5月1日から13年12月10日までの589日間に受け取った2489万9975円の現金は、すべてX子に渡った。

ただ、のちにA子さんがX子を相手取って起こした返還訴訟で、東京地裁は「メモが存在している日を除けば、オプションサービスによる収入を裏付ける客観的な証拠が存在しない」などと判断。

その結果、A子さんのオプションサービス収入は2年間で合計135万2800円分を認定されるにとどまった。

話をもとに戻そう。A子さんがファッションヘルス店で稼いだ金額(店から経費分を差し引かれて日払いで受け取る所得額)と、オプションサービスで稼いだ金額の合計は1億941万2655円。

ここから、2年半で僅か32万2600円という生活費を差し引いた1億909万55円もの大金を、A子さんはX子に現金で渡したことになる(東京地裁のオプションサービス収入の認定額に従うと8586万5480円)。

まさにA子さんはX子にカネを貢ぐ奴隷そのもので、X子にすればA子さんは絶好のカモだった。

税務調査契機にマインドコントロールから脱出

A子さんの恐怖心を煽る目的でX子が創作した数々の事態は、はたから見れば明らかな嘘と分かりそうなものだが、地方出身で世事にうとく、自己肯定感に乏しいA子さんには、悩みの相談相手として依存するX子を疑う発想自体がなく、いとも簡単にマインドコントロールされた。

皮肉にもこうしたA子さんの絶望的な状況を打破してくれたのが、13年11月の東京国税局課税第1部資料調査第1課の税務調査だった。

所得税の任意調査を担当する課税第1部料調第1課がX子とA子さんを調査した際、税務の知識が皆無のA子さんは、ファッションヘルス店のコンパニオン嬢という個人事業主でありながら、3年間で1億円超の事業収入について一度も確定申告していなかった。

それでは料調はなぜ、A子さんの無申告を把握して調査に踏み切ったのか。国税OB税理士が説明する。

「同じ個人事業主といってもファッションヘルス嬢やソープランド嬢の場合、ホステスとは異なり、店側の源泉徴収義務が明文化されていません。

店側が支払調書などを提出しなければ、税務署側がファッションヘルス嬢の収入を把握するのは困難。それに本局の料調がファッションヘルスを個別に調査するケースはあまり聞いたことがない。むしろA子さんから巻き上げたカネを自身の口座に入金したX子の預金残高が急増し、これを把握した料調がX子をターゲットに調査した結果、A子さんの無申告が判明したと考えた方が納得できます」