1日に使える生活費は100~200円

もちろん、実際に苦情など届いているはずもない。だが、恐怖感をあおるX子の言葉に判断力を失っていたA子さんは、入店から10日後の11年6月15日以降、早番と遅番の両方で働くようになった。

これを見たX子は、かさにかかってA子さんに命令した。

「苦情への弁償金支払いに充てるため、さらにはあなたが過食しないようにするため、ファッションヘルス店の稼ぎは私に全額渡しなさい」

そこでA子さんは、ファッションヘルス店から日払いで受け取る報酬(現金)の中から、わずかな生活費分を差し引いた残額について、その額を記したメモとともにX子の自宅マンションのポストに投入し、日々の売上高もメールで報告した。X子は当初、一日数千円を生活費としてA子さんに渡していたが、11年9月頃に一日100~200円にまで減額し、その後は全く渡さなくなった。

A子さんは万引きしたり、友人や客から食べものを分けてもらったりして飢えを凌ぎ、広尾の自宅マンションから店がある新橋まで、徒歩で1時間かけて通勤。電気、ガス、水道すべてを止められても、X子の命令に従った。マインドコントロール、恐るべしである。

手渡した現金は3年間で約1億909万円

X子に恐怖心を煽られ、すっかり洗脳されたA子さんは、X子に紹介された港区新橋のファッションヘルス店で連日12時間働き、日払いの現金で受け取る稼ぎのほぼ全額をX子に渡した。A子さんの11年中の売上高は1829万500円に上ったが、彼女は何とその98%に当たる1789万7500円をX子に渡していた。

X子から食費を与えられず、自宅マンションの電気、ガス、水道も止められ、空腹に耐えかねたA子さんは、X子の自宅に入り、冷凍食品を無断で食べていた。ところが、それがX子に露見して、「二度としません」とする念書まで書かされた。

恐怖心を煽るX子の手口は一段とエスカレート。「異常者」と決めつけた非難のメールを送りつけたり、「私の言うことに従わないと、警察に捕まって刑務所送りになる」などと脅し、世間知らずのA子さんをパニックに陥れたりした。さらに多額の借金の存在を信じ込ませるため、A子さんに何度も借用書を書かせた。

窓際に座って孤独な女性
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昼も夜もなくファッションヘルス店で接客を続けた結果、A子さんの売上高は11年分が前述のように1829万500円、12年分が3614万6000円、13年分が3193万5000円の合計8637万1500円に上った。ファッションマッサージ嬢やソープランド嬢は店員ではなく、個人事業主として店に施設費を支払って利用する立場だ。

A子さんが店側に支払った3年分の経費185万8820円を差し引くと、彼女の所得額は8451万2680円に達していたが、何とこの98.5%に当たる8321万4680円が、X子に現金で渡されていた。