ユーザー目線で考えると、自分好みのコンテンツを見尽くした後もなお同じプラットフォームに留まっていると、見尽くしたコンテンツ、古いコンテンツばかりが残っているだけで、期待感が失われてしまう。それが映画であれば、「映画っておもしろくないな」と思えてしまう。
そうなると今度は、プラットフォームのみならず、共生圏全体のメディア体験が毀損されることになる。
「退会の勧め」は実は正しい長期戦略だった
「水はよどむと腐る」と言われるが、事業者目線で言うならば、停滞することで腐ってくるのはコンテンツではなく「ユーザー」である。
自社のプラットフォームに囲い込んでみすみす腐らせてしまうよりは、他社に乗り替えてもらい、新たなコンテンツに出会うことでコンテンツ体験を活性化させ、メディア体験への期待を復活させたほうがいい。それは共生圏の維持に寄与し、自らの生存戦略としても機能するはずだ。
あるいはネットフリックスもまたそうした関係性に気づいており、活性が低下したユーザーにあえて退会を促し、複数サービス間で回遊を始めることを促しているのではないか。その目的はこの「映像配信サブスクリプションの共生圏」と、そこにおけるユーザーのメディア体験への期待感を維持することである。
ユーザーが映像コンテンツへの期待を失わずこの共生圏内を回遊しているかぎり、一度ネットフリックスから他社のプラットフォームに移ったとしても、いずれまたネットフリックスに戻ってくることになるだろう。
そうであればネットフリックスが、自社が死蔵しているユーザーを自ら手放して退会を促すことも、一見すると奇異に思えて、実は長期戦略として正解と言えるのではないだろうか。