親が死んだとき、子供は必ず「相続」という問題に直面する。経済アナリストの森永卓郎氏は「相続税は期日までに支払わないと、サラ金並みの恐ろしい金利がかかってくる。ウチは金持ちじゃない、不動産がある、などと油断してはいけない」という――。

※本稿は、森永卓郎『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

運河沿いの越中島公園とタワーマンション
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「相続は“争続”」と、身をもって知った

私の場合、父の財産の法定相続人は自分と弟の2人だけだった。子だくさんの家庭だったり、どこかの田舎町に隠し子がいたなんてことになると、話は複雑になる。日本中(あるいは海外)に分散した法定相続人全員と面会して会議を開き、書類に印鑑をもらうのは容易ではない。

相続人が多ければ多いほど、財産の分割をめぐって親族間でめる原因となる。「通夜の席で兄弟や親族がカネの話でケンカをし始めた」なんて醜聞しゅうぶんをよく聞くが、あれは実際に皆さんの身内で起きかねないのだ。

今は民法が改正されたため、生前に親の介護をした貢献分をきちんと請求できるようになっている(本書の第3章で詳述している)。父が亡くなった2011年当時は、民法上そういう規定がなかった。弟と相続の割合について話し合ったところ「法律上、相続はオレと兄貴で折半だ」と言う。

「法律はそうなっているかもしれないけど、オヤジはウチのカミさんが11年間ずっと介護して面倒を見てきた。いちいちオヤジに請求しなかったけど、何百万円じゃ済まないものすごいお金も突っこんでるんだぜ。それなのに折半は反則じゃないの」と文句を言った。

11年間を、父の介護に捧げてきたのに…

妻からも意見を聞いてみた。

「私は、お金は要らない。でも弟の嫁は何もしなかったよね。私は人生を捧げるくらい、お父さんの介護をずっとやってきた。ウチの子どもたちも、ずっと介護を手伝ってきたよね。なのに今になって相続を折半なんて、いくら何でもおかしいと思わない?」

故人が生きていたころは仲が良いように見えたのに、いざあの世へ旅立った瞬間、みにく仲違なかたがいが始まる。肉親同士がののしり合って絶縁し、二度と顔も合わせたくないほど泥沼の関係に悪化することもある。「相続は”争続”」と言われるゆえんだ。

幸い、妻はお金にまったく興味がない。父の介護に11年間を捧げてきたからといって、それ相応の報酬を要求するわけでもない。

釈然としない思いはあったものの、親の資産をめぐって弟と揉めるくらいならば、財産をスッパリ2分の1で分割してしまったほうがよい。森永家の相続は“争続”にはならず、父の財産は折半で一件落着となった。