あわてて不動産を売ろうとしても、間に合わない
相続税は原則、キャッシュで納めなければならない。キャッシュがないからといって、あわてて親のマンションや車、金目のものを売り払おうと思ってもそうは簡単にいかない。マンションの中身が遺品だらけでゴミ屋敷のような状態なのに、不動産がポンポン売れるわけがないだろう。新型コロナウイルスショックで世界経済が悪化している今は、なおさらだ。
だが相続税の督促状は、容赦なく役所から送られてくる。手持ちのキャッシュがない人は、サラ金並みの金利がどんどん乗っかり続ける「第二の相続地獄」を味わうことになる。
幸い私には、父の相続税を支払うキャッシュが手元に十分あった。著書『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社/現在はゴマブックスから増補版が発売)が出て大ベストセラーになったのは2003年のことだ。この本はシリーズで累計50万部近くも売れた。
「柳の下にはドジョウが2匹も3匹もいる」と言われるとおり、1冊ベストセラーが出ると、ものすごい数の出版社からオファーが殺到して「ウチからも本を出してくれ」と言われる。おもしろいことに、似たような内容の本なのに、ことごとく5万部以上売れた。全部ひっくるめると、『年収300万円時代~』以降の出版ラッシュだけで100万部以上の本が売れたのだ。
テレビ出演や講演会の依頼も殺到し、私の手元には潤沢なキャッシュがあった。だから難なく父の相続税をポンと支払うことができたわけだが、万人がこうできるとは限らない。
もし母が生きていれば、相続は非課税だった
よく「介護は運」と言うが、相続も運だと思う。もし母よりも早く父が亡くなっていれば、話はだいぶ違った。そうなれば、父の財産の半額は母に相続され、残り4分の1ずつを私と弟が相続した。これなら完全に非課税だ。
父と母、どちらが先に死ぬかによって、相続にかかる手数も、お上に支払う税金の金額も全然違ってくる。そんなことを言ったって、死ぬ順番なんて人間にはコントロールできるはずもない。
運が悪ければ、青天の霹靂の如く突然「相続地獄」に巻きこまれ、人生の10カ月を棒に振る。挙げ句の果てに、兄弟や親族と仲違いしないとも限らない。そのうえ最終的に「3000万円の相続税をキャッシュでお支払いください」と言われ、家族全員がパニックに陥りかねないのだ。