親が老いても同居する家族や専業主婦が多かった時代は介護を担うこともできた。しかし、核家族化が進み、共働き世帯が増えた今、そうした対応は難しくなりつつある。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは「介護される側の70、80代以上の親世代には介護を経験していない人も少なくない一方で、今の子ども世代は親の介護問題に大いに悩まされている」という。この世代間の意識のギャップは何なのか——。

「親の介護」に人生を翻弄される50代の子供世代の苦悩

筆者が、『親の介護は9割逃げよ 50代からのお金のはなし』(プレジデント社)を上梓したのは2015年のこと。

黒田尚子『親の介護は9割逃げよ 50代からのお金のはなし』(プレジデント社)
黒田尚子『親の介護は9割逃げよ 50代からのお金のはなし』(プレジデント社)

タイトルの文言から、「親の介護はとにかく大変だから、避けられるものなら避けたほうがよい」といった指南書をイメージする人も多かったようだが、狙いは違うところにあった。

高齢期の親をサポートする筆者のようなアラフィフの子ども世代に向けて、共倒れにならないように親の介護や病気、お金とどう向き合っていけばよいのかをファイナンシャルプランナーの立場で書きたかったのだ。

あれから5年以上が経過し、親の介護問題に悩む子ども世代からの相談は確実に増えた。しかも、問題は複雑・深刻化している印象がある。

長引くコロナ禍によって、勤務する会社の給与やボーナスが減額され家計が悪化する子ども世代が増えていることも一端にあるのではないだろうか。

しかし、よくよく考えてみると、介護される側の70、80代以上の親世代の中には、自分の親の介護を経験していない人も少なくない一方で、今の子ども世代は親の介護問題に大いに悩まされている。このギャップは何のだろうか。

今回のコラムでは、親の介護の状況と世代間の認識のズレについてご紹介したい。

父の遺産は1500万円「これで母の介護費用はまかなえますか?」

12月上旬、関東地方に在住の会社員・明石亮介さん(仮名・53歳)から、地方で暮らす実母(79歳)の介護について相談したいと依頼があった。

昨年、実父が亡くなり、預貯金や生命保険、実家の売却代金など遺産は1500万円。このお金と公的年金で、実母のこれからの老後や介護費用をまかなう予定だという。

実母は、半年前に脳卒中で倒れて現在は入院中。ただし、まだ寝たきりというわけでもなく、杖をつかって歩くことはできるし、介護認定は要介護度1だった。判断能力もしっかりしている。

ただ、明石さんの自宅に引き取って一緒に住むことはできないので、住み慣れた地元の周辺で、高齢者施設を探しており、見つかり次第、退院して入所するつもりだという。

明石さん曰く、

「父はくも膜下出血で亡くなりました。救急車で運ばれた病院で、そのまま最後を迎えました。ですから、介護などはほとんどありません。言い方は悪いですが、ラクでしたね。入院中も母が世話をしていましたし。でも、これからの母の介護や病気になったときのお金を考えると、いったいどれだけかかるか分からないし、このお金で足りるのかどうか心配で……」

聞けば、明石さんのお子さんはまだ小学生。教育費はまだまだかかる。加えて自分の年齢を考えても老後資金も視野に入れて準備を進めていかねばらなない。

高齢の親のことは気にかかるが、正直に言うと、自分たちに火の粉がかからないか、事前にきっちり知っておきたいという心積もりのようだ。シビアなように感じるかもしれないが、FPの筆者から見れば、この判断は冷静で間違っていないと思う。

相談者の多くは、漫然とお金を使い果たした後で、「どうすれば良いでしょうか?」といって相談に来るケースが大半だからだ。

明石さんは、こちらが提示した具体的な施設にかかる費用をはじめ、介護費用、医療費などの概算をいくつかのパターンに分けてシミュレーション結果を確認し、「だいたい、どのくらいのお金のかけ方なら大丈夫か目安がわかって、ほっとしました」と満足して帰っていかれた。