上場企業ではおよそ9割が導入済みという成果主義(社会経済生産性本部)。導入から数年を経たいま、「適正な評価に基づく昇格や降格が行われていない」と、制度の有効性を疑問視する声が相次いでいる。企業の業績低迷のなかで導入された本制度は、人件費削減という側面も持っていたためである。
訴訟例の1つとして注目を集めているのが、電子機器製造会社「ノイズ研究所」(神奈川県相模原市)のケース。40代の社員ら3人が、降格と減給を不服として、会社を相手取り訴訟を起こした。同社は2001年4月、就業規則を改定し、賃金制度を年功序列型から成果主義型としたのである。社員の職務を10段階(改定前は7段階)で査定し、役職や給与を決めるというものだ。
その結果、原告社員の評価は10段階評価のなかで下から4番目の「4等級」と3等級ダウンとなり、主任を解任されたほか、基本給を月額7万5050円減額された。会社は代償措置として、1年目は差額の100%、2年目は50%を支払うとしたものの、3年目からはそれもゼロになる。そこで原告は、同僚2人とともに元の役職への復帰と差額分の支払いを求めた。
原告弁護団の1人で馬車道法律事務所に所属する鈴木健弁護士は、「成果主義への移行時に、降格・減給されたわけですが、同社の場合は職務内容が変わらないのに降格したように、評価の手続きが曖昧で、成果主義がきちんと運営されているとは言えません。しかも、どんなに頑張っても2年では元の給与水準には戻せないし、生活への影響は大きい」と指摘する。
04年2月の横浜地裁(一審)の判決では「(給与の)減少が急激で、制度改定に伴う経過措置が不十分。変更は無効」という原告側の勝訴であった。そして、(1)3人が降格前の地位にあることを確認し、(2)会社側に減らされた賃金分として約340万円を支払うよう命じた。
「判決を読むと、成果主義型賃金制度の必要性の是非を争う部分と、その運用の相当性・合理性を判断する部分がある。この裁判では、導入の必要性は否定しないながらも、不利益変更という観点から、降格・減給は誤りだとしたわけです」(鈴木弁護士)
ところが控訴審判決で状況は一転する。東京高裁は「賃金制度の変更には合理性があり、効力は全従業員に及ぶ」として、一審の判決を取り消し、原告側の請求を棄却した。鈴木弁護士は「判決は、経営側の裁量権を広義に認めたものだと言えます。これでは、会社は従業員に対して何でもできることになってしまう」と、上告を決めた背景を語った。
成果主義型賃金への移行の是非を巡る労使間の訴訟で、減給や降格を含む制度変更を認めた判決はこれが初めてである。
果たして会社都合による減給・降格は「会社の裁量権の範囲内」なのか。最高裁の判断の行方は、成果主義制度の見直しが検討されている企業にとって、目が離せないものになりそうだ。