相続のトラブルを未然に防ぐには「遺言」が効果的だ。ただ方式や内容によっては、遺言がかえって紛争の種になる場合もある。それを避けるために、基本をきちんと押さえておきたい。

遺言には複数の方式があるが、一般的なのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」。自筆証書遺言は、文字どおり被相続人(財産を残す人)が自筆で書いた遺言で、執行には家庭裁判所の検認が必要。一方、公正証書遺言は、遺言内容を公証人に伝えて作成し、原本は公証役場に保管。通常は公証役場で作成するが、公証人にきてもらって作成することも可能だ。

どちらも法的な効力は変わらないが、よりトラブルが少ないのは公正証書遺言のほう。公正証書遺言は、公証人が被相続人の意思能力を確認して作成する。それでも被相続人の意思能力をめぐって訴訟になるケースもあるのだから、自筆証書遺言はなおさらリスクが高い。証人2人と手数料が必要になるが、確実を期すなら公正証書遺言がベターだ。

問題は、親にどうやって遺言を勧めるかだろう。相続相談を数多く扱ってきた荘司雅彦弁護士はこうアドバイスする。

「無理に作成を頼むと、それがトラブルのもとになる。金融機関が実施している老後資金セミナーなどに連れていけば、講師が遺言作成を勧めてくれるので、それを利用するのも一手です」

遺言作成時には方式だけでなく、内容にも気を配りたい。まず注意したいのは「遺留分」だ。相続人の法定相続分の半分を遺留分といい、たとえ遺言でも侵害できない。たとえば法定相続人が妻1人子2人の場合、妻2分の1、子1人あたり4分の1が法定相続分で、その半分の妻4分の1、子1人あたり8分の1が遺留分となる。「長男にすべて継がせる」と書いても、他の法定相続人は「遺留分減殺請求」ができる。