雇用を打ち切られた理由が、勤務態度の問題なのか、「性同一性障害(GID)」による差別なのか――。いま大阪地方裁判所で、“女性”として暮らす男性と社会福祉法人が、マイノリティの就労環境と非正規社員の恣意的解雇という問題をめぐって真っ向から争っている。

事案の内容はこうだ。大阪市から委託を受けて、ホームレスの健康や就労相談に当たる「大阪自彊館」の巡回相談員Kさん(51歳)が、2006年3月末、半年ごとに行われる契約更新に際して、上司から一方的に「雇止め」(期間のある定めの契約が更新されずに期間満了をもって終了すること)を告げられた。

「男性社員の女装勤務」で不当解雇が争われたケース

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Kさんは、04年9月からこの仕事に従事。身体は男性なのに、心は女性という性同一性障害者だった。だが、その前年には医師の診断を受けており、ホルモン治療も続けていた。こうしたことは採用面接時に申告済みだった。

通常の巡回業務は、2人1組で制服(デザインは男女同一)を着て行う。その限りにおいては、同僚もKさんの女性を特に意識することは少なかっただろう。

だが05年春頃から一変する。勤務時間外に行われた任意参加のシンポジウムに化粧をして参加したことが問題にされ、「ふざけた態度で研修に参加している」「ホームレスに馬鹿にされる」という誹謗中傷を受ける。同僚からは「男か女かはっきりしてほしい」などと言われ、面接(面談)の同席を断られるという仕打ちも。Kさんは周囲に気を使いつつ、性同一性障害という“病気”について理解を求めるため「職場での学習会実施」を申し入れたが、聞き入れてはもらえなかった。

そのあげくの更新拒絶である。Kさんは、労働問題に取り組む個人加盟ユニオンに相談。団体交渉にも臨んだが、らちがあかず昨年10月に自彊館を相手取り、雇止めの無効と慰謝料200万円を求めて提訴したのである。