すでに6回の口頭弁論が終わり、今後は証拠調べを経て、第一審判決が来春にも出る見通しだ。Kさんの代理人を務める村田浩治弁護士は、こう説明する。

「裁判の争点は、更新拒絶の理由です。会社側は、契約期間満了時のKさんの面接件数、すなわち業務量の少なさのみを雇止めの理由にし、性同一性障害については一切触れていないのです」

なぜか? 実は性同一性障害者による女装勤務について、02年6月に東京地裁で判例ともいえる決定が出されている。

この事案は、出版社に勤務する性同一性障害の男性社員(当時36歳)による女装勤務に対し、会社側が「女装は服務規程違反」として同年4月に懲戒解雇。男性側には医師の診断、ホルモン治療の受診もあったことから、地位保全の仮処分を申し立てた。結局、6月に解雇は権利の濫用として無効とされ、翌年4月までの賃金を仮払いするよう命じられたのだ。

村田弁護士は、「こうした先例もあり、自彊館側は更新拒絶の理由を障害で争ったら負けるので、勤務実績に絞ってきたのでしょう。今後は、Kさんの仕事ぶりに非難されるべき点はなかったことを証明していきます」と話す。

04年7月に施行された性同一性障害特例法により、条件付きながらも当事者の戸籍上の性別変更は認められるようになった。だが法的整備は進んだとしても、性同一性障害をホモセクシャルやレズビアンといった性的嗜好と同一視する偏見、蔑視は依然として根強い。Kさんのような事例は今後も出てくる可能性がある。

もし、職場の同僚や上司、部下に性同一性障害の人がいたらどうするか……。

「まず、自分の常識や価値観によって判断、接しないこと。特に、男なのか女なのか、はっきりさせろという発言は厳禁。当事者は、まさにそのことで悶々と悩んでいるわけですから。どういう障害なのか、しっかりと勉強し、彼らが働きやすい職場環境づくりに努力することが何よりも求められます」(村田弁護士)

(ライヴ・アート=図版作成)