自民党の議席がある広島3区に、公明党副代表が鞍替え出馬へ
広島で自民党と公明党が抜き差しならない関係となっている。衆院広島3区の候補者をめぐり、両党が独自候補を擁立する構えで譲らないのだ。
20年もの間、一貫して選挙協力を続け、成熟した連携を続けて来た両党のせめぎ合いは、すでにヤクザ映画『仁義なき戦い』の域に近づいてきた。そして、この問題は、ポスト菅を目指す岸田文雄前自民党政調会長の命運も左右する——。
11月19日、山口那津男代表は首相官邸で昼食をともにしながら菅義偉首相と会談した。主なテーマは、感染が急拡大する新型コロナウイルス対策だったが、山口氏は、その日の中央幹事会で広島3区に斉藤鉄夫副代表の公認を決めたことを報告。菅氏は無言でうなずいていたという。
斉藤氏は当選9回。党幹事長や環境相などの要職を歴任した重鎮だ。比例中国で当選を重ねてきたが、齢68歳での「鞍替え」出馬となる。当選回数を重ねてベテランとなった時に、選挙区から比例代表に転向することは、しばしばあるが、斉藤氏のような「逆の例」は非常に珍しい。
しかし自民党広島県連は11月18日から候補者公募を開始
広島3区の現職は河井克行元法相(自民党を離党)。妻・案里氏が出馬した昨年の参院選をめぐり、公職選挙法違反の罪に問われている。河井氏は自身の進退を明言していないが、自民党が次の衆院選で公認することはあり得ないので、事実上の「空白区」となっている。そこに、公明党が割って入った。
公明党側には斉藤氏を擁立する理屈がある。夫婦による買収事件で選挙区内は自民党に対する不信感が充満している。1年以内に行われる衆院選では自民党の新人を擁立しても苦戦するのは確実だ。ならば、与党で公明党候補を担いだ方が得策という判断だ。広島県で長く知名度もある斉藤氏は格好の人物でもある。
「平和の党」を標榜する公明党は、広島の選挙区で議席を得るのは悲願でもある。
西田実仁・党選対委員長は19日の記者会見で「政治の信頼を回復し、与党として議席を得るには斉藤氏の擁立が最善と判断した」と語っている。
公明党は10月に、独自候補擁立の意思を自民党側に伝えていた。しかし自民党広島県連は了解せず、11月18日から候補者の公募を始めてしまった。公明党側は、話し合い決着は難しいと判断し、見切り発車したのだ。両党間の相互不信は、過去20年間、最大のものとなっている。