社長に就任した2001年もコマツの経営には逆風が吹いていた。主力の建機需要の低迷とITバブル崩壊を受けたエレクトロニクス部門の不振とで、02年3月期には806億円の最終赤字を計上する。そこで私は、経営の抜本的な構造改革に踏み出す決意をした。
最初に、いくつかのキーワードを練り上げた。まず「経営を見える化する」などの4点を打ち出して問題点の指摘と今後の方向性を示し、そのうえで「ダントツ商品をつくろう」と呼びかけた。
「ダントツ商品」。いまひとつ洗練には遠い言葉かもしれないが、そのためにかえって力強く、印象的でもある。このキーワードを使い、私は次のようなメッセージを社内に発した。
「開発にあたっては犠牲にする機能を先に決める。それによって、対現行モデル比10%の原価低減を実現する。して低減分を原資とし、環境・安全・ITの3点については競合に絶対に負けない『ダントツ商品』をつくる」
実際の文章はもっと長いし、具体的なデータが盛り込まれている。それを作成するのは経営企画室の社員たちだ。
では私は何をしたのか。
「着眼大局、着手小局」という囲碁の言葉がある。碁盤を俯瞰し全体の構想を見極めつつ、周囲の小状況にも細心の注意を払って一手を置くべしという戒めだ。その伝で言うと、まず文章の骨格に当たる着眼大局の部分を個条書きにする。そのうえで、最初の具体的な一手である着手小局のところを指摘するのだ。