スピーチなど人を動かすための文章には、絶対に正確に伝えなければいけないところ、「肝心かなめ」の言い回しが存在する。そこだけは、練りに練って推敲を繰り返し、文章を作り上げなければならない。とりわけ外国語であれば、ネーティブの部下に添削してもらうといった工夫をし、万全を期す配慮も必要だ。
1991年、現地法人社長としてアメリカへ赴任したときのことである。いまよりはるかにひどい不況が待ったなしで進行し、現地6工場のうち3工場を閉鎖しなくてはならない状況だった。困ったのは、どのようにアメリカ人の従業員たちに状況を伝え、納得してもらうかということだ。
彼らは私たちとは母国語が異なっている。そればかりか価値観や習慣も隔絶している。残念ながら私の英語は、それらのアメリカ人相手に複雑精妙な表現をできるほどには上達していなかった。しかし彼らを説得するためには、会社が判断した事実と私の思いを何とかして伝えなければならない。
試行錯誤の末に体得したのが、冒頭に挙げたやり方だった。詳しく説明すると次のようになる。
話の骨格をまずは個条書きの文章でしたためていく。英語でスピーチするときも、この段階では必ず日本語を使う。母国語のほうが思考をまとめやすいからだ。
だが、スピーチにはどうしてもこれだけは伝えたい、わかってほしいと思う「キモ」の部分がある。ここのところを特別に強調するには、どうすればいいか。私はやはり、おざなりな直訳調の言葉ではなく、相手の胸の奥に届くような英語表現を使うことが大切だと考えた。