もはや永田町では「安倍1強」という声は聞こえない。長い間安定的に推移してきた内閣支持率は30%台で低値安定。与党内にも安倍晋三首相を公然と批判する声がある。それにもかかわらず、永田町では「今秋に衆院解散・総選挙が行われる」との見方が日々高まっている。この「自殺行為」ともいえるアイデアの根拠とは——。
衆院解散をためらって惨敗した麻生氏が火付け役に
7月2日、都内の料理屋では自民党の二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長が宴席を持った。新型コロナウイルスの党内の感染者は再び上昇カーブを描いているのだが、自民党幹部たちは、そんなことお構いなしとばかり、夜な夜な会合を重ねている。この日も、2人の自民党幹部が顔を合わせれば当然衆院選の話題になる。
漏れてきているのは、岸田氏が解散の可能性について水を向けた際、二階氏が「いつになるか分からない」と答えたという話のみだ。しかし、永田町内では「もっと深い話をしたの違いない」という、ざわつきが広がる。
火付け役は麻生太郎副総理兼財務相だ。麻生氏は2008年、首相に就任した際、ただちに衆院解散に打って出るのをためらい、衆院選が翌夏になってしまったことで惨敗。自民党が下野して民主党政権の誕生を許してしまった苦い体験を持つ。それだけに、政治の局面の度に早期解散を安倍氏に進言している。
その麻生氏は6月29日、公明党の斉藤鉄夫幹事長と会談した際、「今秋の衆院選が望ましい」と伝えている。麻生氏はこの10日前、19日の夜に安倍晋三首相、菅義偉官房長官、甘利明党税調会談と夕食をともにしながら2時間半にわたって意見交換している。
この会合は、安倍氏がコロナ問題が浮上してから自粛していた夜会合を解禁した「記念すべき」会合として注目され、「秋の衆院選説が浮上した」との観測が出ていた。それだけに麻生氏の発言で、一気に燃え上がったという形だ。