遺体を扱う葬儀業の人たちは新型コロナウイルスとどう向き合っているのか。アメリカのエンバーマー(遺体衛生保全技師)の資格を持つ橋爪謙一郎氏は「遺体からも感染する可能性があると伝わり、葬儀の現場は恐怖に晒された。アメリカと比べ、日本は感染症に対する備えが不十分だった」という。ジャーナリストの柳原三佳氏が取材した——。
感染リスクに晒され続けた葬儀関係者
——橋爪さんは米国の大学で葬儀科学を学び、帰国後は都内でエンバーミング(遺体衛生保全)事業を営んでいますね。新型コロナウイルス感染症が広がり、徐々に「亡くなってからも感染力がある」ということが明らかになりました。葬儀の現場ではそのとき、どのような対応が行われていたのでしょうか。
【橋爪】新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」になったのは2月1日、国内初の死亡者が出たのは2月13日でした。厚生労働省が感染者の火葬について都道府県の担当者に通知し、同時にHPで公開したのは2月25日です(※1)。
※1:厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課「新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体の火葬等の取扱いについて」
当時は情報が不足しているだけでなく亡くなった後にどれくらいの感染力があるのかがはっきりしませんでした。そのため、個人防護用品(PPE)の備蓄が十分でない事業者は、不安や戸惑いを抱えながら搬送、葬儀、火葬の業務に従事していたと思います。
実際、地元・北海道で初めて死者が出た時、私のところにも道内の葬祭業者数社から問い合わせがありました。その後は葬儀社だけでなく、納棺業者、搬送業者からもアドバイスを求められました。葬儀の現場は感染の恐怖に晒され、情報を求めていました。
——3月29日に志村けんさんが新型コロナで亡くなり、ご遺族がお別れもできなかったと報道されると、亡くなった後の問題について人々の関心が一気に高まりました。
【橋爪】実は、この時点ではまだ、医療機関側が個人情報保護を理由に感染の事実や感染の疑いを伝えないままご遺体を引き渡した事例があったようで、葬儀の現場は混乱していました。