死因が分からない変死体にPCR検査を続ける女性研究者がいる。千葉大学附属法医学教育研究センター助教の永澤明佳氏は「新型コロナの感染が広がっても、変死体への感染状況は調べられないままの状態が続いている。ウイルスの実態を明らかにするためにも死者のPCR検査こそ必要だ」という。ジャーナリストの柳原三佳氏が取材した——。
変死体が「感染していない」とは言い切れない
——法医学教室には事件や事故、孤独死などによる「変死体」が運ばれてきます。千葉大学では全国に先駆けて、変死体にPCR検査をしています。いつから始めたのですか。
【永澤】そろそろ緊急事態宣言が出るらしい、という話が出始めた3月後半です。
法遺伝学者(法医学領域のDNAを扱う研究者)であり、歯科法医学者の斉藤久子先生と共に、「警察から運ばれてきたご遺体のPCR検査は、法医学教室でできるようにしておかなければならない」と思い立ち、二人で相談しながら、PCR検査機器のメンテナンスや試薬の発注など、準備を始めました。
保健所や衛生研究所は、現在もそうですが、生きている患者さんのPCR検査で精いっぱいでご遺体にまでなかなか手が回りませんので。
——変死体にもPCR検査が必要だと思った理由は何ですか。
【永澤】警察が「異状死」として取り扱うご遺体の中には、はっきりした死因がわからないまま自宅で亡くなっている人や、屋外で倒れて発見されるケースが多いのですが、そうした方の中にも新型コロナウイルスの感染者が含まれている可能性があると思ったからです。
——感染を認識しないまま、病状が悪化して亡くなる方もいるのですね。
【永澤】そのとおりです。発熱したらすぐに病院へ行って受診する、また、症状が出る前からPCR検査を受けようと思う人は意識の高い人ですが、体調が相当悪くても病院に行かないで我慢する人はかなりおられるのです。