感染リスクにさらされる警察官、検視官、警察医、法医学者……

——実際に、『変死体のコロナ感染11件…5都県、1か月間で』(2020.4.21/読売新聞)という報道がありました。記事によると、死後に感染が発覚した方の多くは自宅で倒れている状態で見つかったとか。

【永澤】北千住駅近くの路上で倒れていた方もおられたようですね。

——5月には群馬で「交通事故後に救急搬送され死亡→コロナ感染判明」というケースもありました。

【永澤】変死体として法医学教室に運ばれてくる遺体にも検査をする必要があります。死後CTで肺炎は見つけられたとしても、それが新型コロナウイルスかどうかは、解剖とPCR検査をしてみなければわかりません。

——死因不明の変死体に触れる先生方のような仕事は、感染が心配ですね。

【永澤】はい。われわれの仕事は、常にさまざまな感染症のリスクにさらされています。私自身は今、4歳と2歳の子どもの子育て中ですが、もし、自分がご遺体から感染して子どもにうつしてしまったらどうしようという不安は常にありますね。また、現場でご遺体にファーストタッチする警察官や検視官、警察医も特に危険です。

斉藤(左)と永澤
写真提供=千葉大法医学教室

——遺体の場合、PCR検査に使う検体はいつ、どのように採取するのですか。

【永澤】鼻咽頭を拭ったり、解剖時に肺から組織をとったりして、それを使います。

感染の有無も分からずに遺体に触れる現状

——PCR検査の結果は、解剖が終わってから出るのですか?

【永澤】本来は、解剖医やスタッフの安全を守るためにも、解剖の前に感染の有無を検査するべきです。特に、今回の新型コロナは、未知のウイルスによる新規感染症ですので……。

しかし、残念ながら今の日本ではそういう流れにはなっていないので、死後CTで肺炎が疑われる場合は、防護服などを着用して感染症対策を行ったうえで解剖しています。

——千葉大法医学教室ではこれまでに何体分のPCR検査をしたのでしょうか。

【永澤】8月28日現在で77体ですが、これらは生前の症状の有無にかかわらず検査を行いましたが、今のところ陽性者は出ていません。

——陽性の結果が出たらどう対応するのですか。

【永澤】まずは結核と同様、保健所に連絡します。その後、ウイルスの専門家がいらっしゃる東大医科学研究所に、ご遺体から採取した検体や血液を送り、死後、ウイルスの感染力がどのくらい続くのかを分析していただきます。

——現在、変死体のPCR検査をしている法医学教室は、千葉大以外にもありますか。

【永澤】全国で7~8カ所だと聞いています。

——日本国内では、変死体のPCR検査がほとんどできていないのでは。

【永澤】そうですね。どこの大学も、国や県から検査をするよう指示を受けているわけではなく、あくまでも独自の判断で行っているというかたちになります。

他の法医学教室では、すでに新型コロナ陽性のご遺体が出ていると聞いています。やはり、検査をしておくことは大切だと痛感しています。

「善意」に頼る遺体へのPCR検査の実態

——PCRの検査機器をそろえる費用はどれほどかかりますか。

【永澤】多くのメーカーからさまざまなグレードのPCR検査機器が販売されていますので一概には言えませんが、1台350万円から500万円です。試薬も意外と高く、50反応分で15万~25万円です。

PCR検査をする機材
写真提供=千葉大法医学教室
PCR検査をする機材