普通のホテルとは異なり、ラブホテルでは「宿泊者名簿」に記入する人が少ない。もしラブホテルで新型コロナ感染者が出れば、感染ルートを追えないリスクがある。そのため感染防止対策は死活問題だ。福岡市のあるラブホテルチェーンは、孤独死や自殺などで汚れた部屋を清掃する「特殊清掃業者」に除菌のノウハウを学んでいる。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏がその様子をリポートする——。
H&S外観
写真提供=ホテル&スイーツフクオカ
H&S外観

コロナ禍でラブホテルが特殊清掃ノウハウを学ぶ理由

コロナ感染拡大の影響を受け、多くの企業が倒産の憂き目にあう中、比較的、売り上げが堅調なのが「ラブホテル」である。遊興施設が軒並み休業し、デートができなくなった結果、カップルがラブホテルに集まってきているからだと推測できる。

ラブホテルは宿泊施設に該当し、緊急事態宣言下においては各自治体が適切な感染防止対策の協力を要請するものの、基本的には休業要請の対象には入っていない。現在全国にはおよそ8000施設のラブホテルがあるが、多くの施設が営業を続けているとみられる。

ただし、安心・安全に利用するには徹底した空間の除菌が必要となる。ラブホテルは、法律上は宿泊名簿は置くことになっているものの、実態としては名簿を記入する客は少ないと考えられる。したがって、感染ルートが追えないリスクがある。絶対に感染者を出してはいけない施設といえる。

そんな中、ラブホテルのクリーニングを手掛ける「除菌のプロ」が現れた。

ダイヤモンド・プリンセス号のクリーニングをした業者に依頼殺到

福岡県久留米市の特殊清掃業者「友心まごころサービス(以下、友心)」である。特殊清掃は、孤独死や自殺・殺人などで汚れた部屋をクリーニング、除菌し、何事もなかったかのように元の部屋に戻すサービス。特殊清掃業者がコロナウイルスの除染で活躍している事例は、3月23日に「あのクルーズ船の『特殊清掃』を任された業者が、次に抱えている仕事」の見出しで公開したダイヤモンド・プリンセス号のクリーニングの様子を紹介した記事に詳しい。

友心の社長岩橋ひろしさんはかつて、殺人現場となったラブホテルから血痕の清掃依頼を受けるなど、ラブホテルの清掃実績は少なくない。同時に、ウイルス感染のリスクの高い部屋の除菌清掃は日常茶飯事だという。

独居状態の人がウイルス性肝炎で亡くなり、そのまま部屋で腐敗してしまったケースなどは特殊清掃業者も感染リスクにさらされる。そのため、友心では常にウイルスの防除を念頭においたトレーニングと、クリーニングを徹底してきている。また、除菌を手掛ける業者の急増によって、消費者が迷うのを防ぐために業界団体の一般社団法人除染作業管理協会の理事も務め、業界の指導にあたっている。 

岩橋さんの元に、あるラブホテルチェーンの社長から連絡が入ったのは今月初旬のこと。依頼主は福岡県内で6施設展開するプランタンホテルグループ(福岡市博多区)の森藤紳介社長だ。グループ施設のひとつで、郊外型ラブホテル「ホテル&スイーツフクオカ」(博多区金の隈)の除染と清掃スタッフの指導を行ってほしいという。

ホテル&スイーツフクオカの1階フロントロビー
写真提供=ホテル&スイーツフクオカ
ホテル&スイーツフクオカの1階フロントロビー