感染の有無が「わからない」から生じる不安
厚労省が「新型コロナウイルス感染症で死亡した人の遺体を医療機関が葬儀業者に引き渡す際には、感染していたことについて伝達を徹底するように」と全国の自治体に通知したのは、3月31日。感染者のご遺体の取り扱いをまとめて発表したのは、4月6日です。
——感染症指定から2カ月以上も経過していたのですね。しかし、いまだに感染しているかどうかがわからないご遺体もあるようです。
【橋爪】「『コロナの死者数はもっと多い』東大法医学者がそう断言する死因究明の現実 死後CTだけでコロナは分からない」を読ませていただき、まさにその通りだと思いました。
今の不安の大部分は「わからない」ことです。まずは、ここからスタートしなければなりません。常に「すべてのご遺体が感染者かもしれない」という前提で対応する必要があります。感染の有無がわかっていれば気をつけられるし、不安や怖さはなくなります。
——現状では全ての遺体にPCR検査はできていないようです。
【橋爪】そこが難しいところですね。実際に、死亡診断書の死因の欄に「肺炎」と書かれていて、PCR検査をされていないご遺体の場合は、「本当に大丈夫だろうか?」という不安がぬぐえません。万一コロナに感染していた場合は、葬儀参列者への感染リスクがあります。
むしろ、病院で新型コロナウイルスと診断された方のご遺体は安心です。搬送担当者がお迎えに上がったときにはすでに消毒され、きちんと納体袋に収められているので。
しかし、感染者のご家族は無症状であっても「濃厚接触者」として扱われ、しばらくは外出ができなかったり、3密を避けるために、そもそも今までのようなお葬儀をすることができません。
「実は陽性だった」保健所からの連絡にざわつく葬儀現場
——たとえば、葬儀の準備中に「ひょっとすると亡くなった方は感染者かもしれない」といった事実が発覚するようなことはあるのでしょうか。
【橋爪】死因が「肺炎」と診断された方のご遺体を運び、お葬儀の準備をしているとき、「実はPCR検査の結果、新型コロナの陽性だった」ということが分かったケースがあったと聞いています。
——PCR検査の結果を待たずに、ご遺体を返してしまったということですね。
【橋爪】そういうことです。また、病院から引き取ったご遺体を冷蔵庫でお預かりしていた葬儀社さんに、保健所から連絡が入ったこともありました。
——ご遺体引き取り後に、感染の疑いが発覚したということですか。
【橋爪】はい。「そちらに○○様のご遺体は保管されていますか? 新型コロナに感染していた可能性があるのでPCR検査のキットを持って、これから伺います」と。さすがにこういうことが起こると、感染症対策に不安を抱えている現場はざわざわしてしまいます。