成果を上げよ、斬新な企画提出を、と“言葉”でいくら言われても、“頭”をいくら悩ませても、実際にはなかなか難しい。でも、実は“胃袋”にこそ、やる気とひらめきの見えない鉱脈があるのだ。

「食堂から会社を変えようという動きは新しいインテリジェンス、ソフトインテリジェンスですね」

と語るのは心理学者・臨床心理士の植木理恵さん。

心理学の世界ではこの2~3年、直接的に相手を論破する「ハードインテリジェンス」と、周辺環境などを整えて間接的に影響を及ぼす「ソフトインテリジェンス」を分けて考える潮流があるという。

「例えば、鬱の人に『元気を出して』と言ってもなかなか難しい。そこで『背中を伸ばして、早歩きしてください』と言うのがソフトインテリジェンス。形から入ることで、後から元気がついてくるという方法です」

植木さんは、社員食堂にも同様な効果を感じるという。

「戦術講座とかセミナーを開いたほうが考え方や信念、頑張ろうって気持ちなどを早く動かせるように思われがちですが、心理術というのは実はすごく時間がかかるんです。でも、ご飯はすぐに変えられる。おいしいものや気持ちのいい空間を提供して、会社はこれだけあなたのことを考えているんですよって、言葉ではなく環境で伝えようということですよね」

心理学的には、こうした間接的なメッセージの伝え方を、メタメッセージと呼ぶという。

「例えば、ありがたいお坊さんのお話を聞けば感動ボルテージは一瞬でぐんと上がるけど、その効果はせいぜい2週間。体験でしか、持続性というものは生まれないんです。なので、日々のご飯がおいしいっていうのは、単純に見えて、実はすごくクレバーな方法ですね」

心理学で「行為の返報性」と呼ばれる「よくされるとこっちもよく思う」というシンプルな図式に従って、頑張ろうという気持ちになるのだ。