一方、日本では昭和50年代にすでに「社員間のコミュニケーション」「愛社精神の醸成」等、ソフトインテリジェンス的な目標を掲げてフレンチレストラン並みの設備を持つ社員食堂が登場している。天然由来の合成甘味料トレハロースなどで知られる岡山県の化学製品メーカー林原は1982年、グループ企業のホテルからシェフを招いてビュッフェ方式の社員食堂「林原レストラン」をオープンした。
総務アメニティー等を担当する取締役の秋山眞佐篤さんが、当時の事情を振り返る。
「ちょうどマイカーの普及が進んだころで、我々のような地方の企業では自動車による通勤が増え、日本のサラリーマンには必須ともいえる“飲みニケーション”が難しくなっていました。そこで社員同士のコミュニケーションの円滑化を図るために、社長の鶴の一声で、新しい社員食堂づくりが決まったんです」
最近はメタボ対策などカロリー控えめな健康食を採り入れる企業も多い中で、林原は美味しさが最優先。月に数回、和食も登場するが、基本は伝統のフランス料理。一番人気は月一のビーフステーキ。程よく脂ののったステーキは、レア、ミディアム、ウェルダンの三種類の焼き方で提供されるというキメ細やかさだ。
様々な機能を持つ人工糖質であるトレハロースは、林原が世界で初めて量産化に成功、菓子類や缶コーヒーからコンビニおにぎりまで幅広く使われている。さらに、同社は医薬品開発研究、恐竜の化石の発掘、チンパンジーの研究、美術館運営までしており、社員も「何をやってる会社なのか説明しづらい」というほどだ。岡山駅近くの本社社員食堂では、医薬品の研究者と恐竜の研究者と営業担当が相席になることも。恐竜発掘チームのスタッフは「社員食堂で他分野の専門家と話をすると、視点が変わって楽しいし、いい刺激にもなります」と話す。
一見脈絡のない幅広い業務から生まれる多彩な発想が「誰にもできないことを可能にする」林原の最大の特徴。最近も、新しいがん治療法やトレハロースの脂肪細胞抑制効果などを発表したばかりだ。