2019年夏、博報堂の雑誌「広告」リニューアル号が話題になった。1円で販売されて、1万部が瞬く間に完売。アマゾンのマーケットプレイスでは5,000円以上で取引されている。仕掛けたのは、大手広告代理店博報堂の社員でありながら、社外でデザインスタジオ「YOY」を立ち上げた小野直紀氏。社内でも博報堂初のモノづくりに挑戦する「monom」の代表を務める。異色のクリエーターは、世に何を問いたいのか。田原総一朗が切り込む――。

仕事とアートを両立、博報堂「1円雑誌」の仕掛人

【田原】小野さんは博報堂でクリエーターとして活躍していた。なぜ「広告」の編集長をやることに?

博報堂「広告」編集長 小野直紀氏

【小野】ある日突然、役員から「編集長をやらないか」と電話がありました。僕は社内だけでなく社外でモノづくりの活動もしていたので、最初は時間的に難しいと思いました。でも、これまで編集長をやっていた人や役員に話を聞きに行ったところ、「この雑誌を好きに使っていい」「博報堂を背負わなくていい」と言われまして。じつはちょうどそのころ、これからの自分のモノづくりについて考え始めていたところで、自分の好きに使っていいなら、それを考えるために雑誌という情報の場を利用させてもらおうかなと。

【田原】リニューアル号のテーマは「価値」だった。

【小野】いいモノをつくることとは何なのかと自分自身に問うための雑誌にしたかったので、価値をテーマにしました。