小さいころからモノをつくることが好きだった

【小野】コピーライターになるタイミングと同じ時期に、博報堂の外でモノづくりを始めました。僕は小さいころからモノをつくることが好きだったのですが、自分がやりたかったことと、会社に入ってからやったデザインやクリエーティブにはギャップがあった。具体的には、会社ではクライアントとか社会が抱える課題を解決するためのデザインやクリエーティブを求められます。それも大事ですが、課題解決じゃないものもやってみたい。見て面白いと感じたり、言葉にできないけどなんかいいと思えるモノをつくりたかったんです。

【田原】具体的にどういうこと?

【小野】YOYでは椅子や照明をつくっています。椅子や照明って、IKEAや無印良品に行けば使えるものがたくさん売っていますよね。課題解決という意味では、もう新しい椅子や照明は必要ないのかもしれません。でも、そのほかにインテリアとして面白いものがあってもいい。たとえば僕らがつくった「CANVAS」という椅子は、パッと見たところ、椅子を描いた絵が壁に立てかけてあるように見えます。でも、この絵の中の椅子に実際に座れる仕組みになっている。何も課題解決しませんが、部屋の中に1つこんなものがあると面白いんじゃないかと思って。

【田原】椅子は椅子だけど、いままでになくて、むしろ役に立たないものをつくりたかったんだ。小野さん、相当ひねくれてるね(笑)。

【小野】はは、そうかもしれません。会社に入ると、役に立つもの、便利なもの、効率的なものしかつくれません。そうじゃないものを別のところでつくらないと、バランスが悪くて気持ちよくなかったので。

【田原】つくったモノは商品化されているんですか?

【小野】ミラノサローネという世界最大のデザイン展示会に出品して、反響のあったものはいくつか製品化されています。なかにはニューヨーク近代美術館(MoMA)のストア部門が商品化してくれて、世界中で数十万個売れている商品もあります。

【田原】小野さんはYOYに飽き足らず、次は社内で「monom」を始めた。これも説明してください。

【小野】YOYは社外の個人的な活動で、monomは博報堂の中でやっています。当時、僕は外でプロダクトデザインをやって、自分のつくりたいモノをつくっていました。一方、社内ではコピーライターとして、世の中から求められるものをつくっていた。それを掛け合わせたら新しいものができるんじゃないかと思って、会社の中でモノづくりを始めました。