もう会社の中でやる必要はないんじゃない

【田原】趣味と仕事を掛け合わせるとしても、もう会社の中でやる必要はないんじゃないですか。博報堂でやるのに、どんなメリットがあるの?

【小野】起業も考えました。でも、その道は一般的になり始めているから、逆に会社にいながらやるアプローチのほうが面白いことができるんじゃないかと。

【田原】なるほど。小野さんはやっぱりへそ曲がりだ。

【小野】はい。行列には並びたくないタイプです(笑)。

【田原】会社はすんなりやらせてくれたのですか?

【小野】博報堂は広告会社。普通にモノづくりをやりたいと言うと否定されると思ったので、まず開発ができる外の会社と一緒にプロジェクトを開始。すでに動いている事実ができたところで、役員に直接プレゼンをしました。提案書のタイトルは「辞表」。モノづくりができないなら会社にいても意味がないという覚悟を見せるためです。そうしたら、あっさり「やってみれば」と。応援するでもなく突き放すでもなく、生温かい感じでしたね。

【田原】そこが博報堂の面白いところだ。たぶん電通だったらノーって言うよ。それで、monomではどんな製品をつくったの?

【小野】monomとして製品化したのは「Pechat」です。スマホと連動した黄色いボタンで、ぬいぐるみにつけてスマホを操作すると、声がしておしゃべりができます。製品化前にサウス・バイ・サウス・ウエストという米国のイベントで発表したら反響があって、それをもとに社内で提案を通しました。発売元が博報堂というケースはこれまでゼロ。定款にも製造業とは書いていなかったのですが、解釈を工夫して、最終的にOKが出ました。Pechatのほかに、他社とやっているものもいくつか製品化されています。

【田原】monomとYOY、どっちかに絞らないんですか。話を聞いていると、やっぱり独立して外に出たほうが自由にできそうだけど。

【小野】うーん、これだけやっていればいいというものを自分の中でまだ見つけてないんですよね。やりたいことがたくさんあって、YOYとmonomもしっくりきているわけじゃない。もっといいモノをつくれるんじゃないかという気がしています。

【田原】小野さんは世の中に問題提起をしたいんだね。「広告」もそうだし、世の中にないモノをつくろうとしているYOYやmonomもそう。いわばお釈迦さんだ。釈迦は、人間は理性だけではダメだと言って、問題提起として仏教をつくった。それと同じことをやろうとしている。

【小野】世の中への問題提起ではあるのですが、同時に自分への問いかけでもあります。むしろ後者の思いのほうが強いかもしれませんね。

【田原】自分への問いかけを、まさに宗教って言うんですよ。釈迦でピンとこないなら、曹洞宗の道元だね。道元の本を読むと、小野さんはきっと共感できるんじゃないかな。ぜひ読んでみてください。

小野さんへのメッセージ:自分の中の“いいモノ”を作り続けろ!

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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