不慣れな環境では、最初から自分らしさを出す

【三宅】留学先の学校生活は大変でしたか?

【鈴木】いまでも思い出すと恥ずかしいのですが、出だしで失敗したんです。いくら学校で英語が得意だったとはいえ現地ですぐに通用するわけはなく、最初のうちは思うように意思疎通ができません。それは仕方ないとして、どんどん無口になってしまったんです。しかも、気がつくと僕自身も寡黙でニヒルなキャラクターを確立しにいこうとしてしまって。

【三宅】それは本当の鈴木さんではない?

【鈴木】日本ではクラスで一番しゃべるタイプでしたから真逆です。仕事で役を演じるのは大好きですが、日常生活で自分ではない自分をずっと演じることはやはりつらいです。その結果、クラスメートには「日本人はなんてクールなんだ」と誤解を与えてしまって、学校のイヤーブックでフェーバリット・パーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれてしまったくらいで。

【三宅】ある意味、相当、“役”に徹したんでしょうね。

【鈴木】おそらく。「このままではいけない」と気づいて途中から積極的にしゃべるようにしましたが、最初から自分らしさをちゃんと出せばよかったなと反省しています。不慣れな環境に身を置くときは、いまでも気をつけていることです。

【三宅】楽しい思い出も作られて?

【鈴木】もちろんたくさんあります。例えば、留学先で恋をして、その影響で日本に帰ってきてからドイツ語を猛勉強したらスピーチコンテストで優勝してしまったこともあります。

【三宅】それもまたいい体験をされましたね。

海外に行きたがらない若者はもったいない

【三宅】ただ、最近の若い人は海外に興味持たないという一面もあります。高校や大学の交換留学で募集をしても集まらないこともある、そんな時代です。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【鈴木】もちろん、誰もが海外に行かなければいけないというわけではないですが、僕としてはもったいないなと感じます。以前留学関連の講演会で大学生向けに話をさせていただいたことがあるのですが、政府がお金を出してくれるというのに、「行って失敗したらどうするのか?」という質問が学生から出てビックリしました。「え、失敗ってなに?」と思いました。

僕の中で留学というものは「うわー、楽しかったな」といって帰ってくる人は基本的に多くないと思っています。実際は失敗から学ぶことの方が大きいですし。やはり、追い詰められて苦しむ期間がないと本当のスキルにならないと感じます。

もちろん、楽しいこともたくさんあります。言葉が通じなかった人と徐々にコミュニケーションが取れるようになって仲良くなっていくとか、逆に言葉が通じないのに仲良くしてくれる人が出てきて人の優しさを実感するとか。あと、僕の場合は野生動物に囲まれて過ごしましたが、環境がまったく変わるのもいま思えばすごく良かったと思います。そういういい経験がたくさんできますからね。

【三宅】そうですね。

【鈴木】だから厳しさはしっかり覚悟しながら、でも楽しいこともいっぱいあるし、その後の自分の人生に活きてくるというところを意識して飛び込んでもらえるといいのではないかと思うんですよ。そもそも自分の成長がこんなにはっきり見える期間はないですから。

鈴木亮平(すずき・りょうへい)
俳優
1983年、兵庫県生まれ。東京外国語大学卒業。英検1級の資格をもつ。2006年日本で初めての水着キャンペーンボーイに選ばれる。同年テレビ朝日系ドラマ『レガッタ』で俳優デビュー。映画『椿三十郎』『カイジ 人生逆転ゲーム』『HK/変態仮面』『海賊とよばれた男』、フジテレビ系ドラマ『メイちゃんの執事』、NHK連続テレビ小説『花子とアン』、NHK大河ドラマ『西郷どん』などに出演。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
 

〔ヘアメイク=宮田 靖士(THYMON Inc.)スタイリスト=徳永 貴士〕

(構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)
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