英語に苦手意識を持つ人は、「発音」を理解できていないことが多い。統計家の西内啓氏は「英語を発音する際の“唇”の動きを知ることは、英語学習に効果がある」という。イーオンの三宅義和社長が、そのわけを聞いた――。(第1回)
統計家でデータビークルCPO(製品責任者)の西内啓氏

受験英語の文法知識は会話にも役立つ

【三宅義和氏(イーオン社長)】西内さんが英語に初めて出会われたのはいつ頃ですか。

【西内啓(統計家、データビークルCPO)】小学校の頃から一応、ネーティブの先生がいる近所の英会話教室に通っていました。そこで遊びながら英語を使ったり、母が運転する車の中で英語の歌や会話のテープを聞いたりとか、ゆるゆるとやっていました。

【三宅】では中学入学時点で相当英語は得意分野だったのでは?

【西内】これが、中学も高校も凡庸な成績でして……。高校は公立の進学校だったものの、中学は普通の公立でいつも5段階中4などでした。発音に関しては中学に上がった時点では多少うまかったと思うのですが、普通の学校で英語をペラペラしゃべっていると「おい、あいつ調子に乗ってるぞ」ってみられる風潮がありますよね。だから僕もわざとカタカナ英語に戻して話していたら、そのうち正しい発音を忘れてしまうという悲しいことがおきまして。

【三宅】それはもったいなかったですね。ただ東大に入学されたわけですから受験勉強は当然しっかりされましたよね。

【西内】はい。それはもう全力で。

【三宅】受験勉強などで英語の基礎を身につけられた方は、会話の練習をはじめても伸びが早いというのをよく感じます。

【西内】それは間違いないでしょうね。いくつか語学学習に関する研究者の本などにも目を通してみたのですが、大体どの本にも大人が英語を学び直すなら基本的なスピーキングで使う英文法からはじめましょうといったことが書いてあります。「あ、それくらいならまだ覚えているからラッキー」と思った記憶がありますね。

気合で乗り切ったハーバード留学時代

【三宅】英語を本気で勉強しだしたきっかけは何ですか? 英語の論文などですか?

【西内】いや、読むことに関しては中高の英語教育のおかげもあって大量に読んで慣れていくうちにストレスは感じないようになりました。論文などの執筆についても、多少つたない文章であっても英文校正をかければなんとかなりました。だから学生時代から大学教員時代にかけてはあまり必要性を感じることもなく過ごした。

そのあとボストンにあるハーバード大学の附属研究機関に留学しましたが、そのときは無理やり気合で乗り切ったという感じです。おそらくハーバードのキャンパス付近で最も英語が上手にしゃべれない人間だったのではないでしょうか。そのうちうまくなるだろうとタカをくくっていたら、そのまま留学が終わってしまいまして。

【三宅】そうでしたか。

【西内】そうなんです。ただ、あまりに上達しなかった自分を猛省して、日本に帰国してからコツコツ勉強するようになりました。先にやっておけよという話なんですけど。

よく日本の学校教育に対する批判がありますよね。僕なりの率直な見解を申し上げると、僕は中学、高校とも私立校に通っていないばかりか、塾にすら通っていません。最後の半年間、近所の予備校の自習室を使いたいというためだけに短期間の講習を少し受講したぐらいですね。つまり、公立の学校教育に頼りっぱなしだったわけですが、それでも学校の授業で習うことを一通りマスターすれば東大には入れてもらえます。

また、普通に統計学の研究ができるくらいの数学力や英語の読解力も身につけることができました。それにもかかわらずスピーキングができないということは、これはもう僕の問題ではなく、カリキュラムになんらかの穴があるとしか思えないのです。