誤解が多い「モラハラ」
2001年に施行されたDV防止法(配偶者暴力防止法)によって、家庭の中に埋もれていた暴力が認知されるようになった。しかし、DVというと殴る、蹴るという身体的暴力の認識にとどまりがちで、パートナー間におけるモラハラ(精神的DV)がどういうものなのかを理解している人は決して多いとは言えないだろう。
ややもするとDVの深刻さを理解せずに軽視したり、逆に、本当はモラハラに該当しないような場合でも、気軽に「モラハラ」という言葉が使われたりして、誤解も多い。それは筆者自身、DV家庭で育った経験者として、痛切に感じているところである。
「心配」を口実にした束縛
それでは、どんなケースがモラハラだと言えるのだろうか。(※年齢は結婚当時)
【図版1】の4コマ漫画は、「ねこ★はち」さんのブログ「シングルマザーあるある〜元夫が怖すぎます」のひとコマだ。
結婚当時、ねこ★はちさん(30代)が「友達と会う」と伝えると、夫には「心配だから」と、15分毎に連絡をするように要求されたという。
夫は返信がないと、20分の間にすさまじい勢いで30件超のメールやLINEを送ってくる。しまいには女子会が開かれている店に押しかけ、「心配」という便利な言葉で、ねこ★はちさんの自由を奪っていった。
こうして徐々に妻の交友関係を絶っていき、実家に帰ることも許可制にし、家で過ごしている間の行動も定時連絡を要求した。しかし、自分の行動については、細かく聞かれることを嫌がった。
「他の“モラハラ夫”も、なぜか同様らしいです」と、ねこ★はちさんは語る。
私はねこ★はちさん以外の女性たちからも、自分が在宅のときに妻が留守をすることを嫌がり、夜に開催される会合への参加を許さなかったり、買い物から帰るのがいつもよりも5分遅くなっただけで、「だれと会っていたんだ!」と疑ったり、新幹線で2時間かかる実家に帰るときでさえ、日帰りが条件という夫の話を聞いたこともある。
パートナーが他人とコミュニケーションを取ることを嫌がるモラハラ配偶者は、独占欲が強く、パートナーを別人格の人間として見ることができない。自分の所有物と考えているからだ。
自分と他者との間に線引きができていない状態を表す「境界線の侵害」という心理学用語がある。「あなたのため」と言って自分の考えを押しつけたり、「自分名義なのだから私には家族の携帯メールを見る権利がある」と考えたりするような親やパートナーもその一例だ。