“モラハラ夫”はなぜ、妻と対等な関係性を築けないのか。ジャーナリストの林美保子さんは「男性の中には、男女平等を目指す社会に順応しながらも、家に帰ると『自分が主人で妻は従うのが当然』という思考回路に変わる人もいる。被害者たちに話を聞くと、『しつけ』『おまえのため』というフレーズはモラハラ夫の決まり文句であるらしい」という――。(第2回/全3回)
無自覚の「男尊女卑」意識がDVを深刻化させる
世界経済フォーラムが2024年6月に発表した日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位であり、特に経済、政治分野の男女格差が大きいという結果が出ている。これは、女性の管理職や政治家が少ないなどの現状を数値化したものだが、その背景には、根強く残る「家事、子育て、介護は女性の仕事」「主導的な役割は男性にある」などという固定的な性別役割分担意識があるため、状況を改善して順位を上げるのはたやすいことではない。
モラハラ的な思考をする人間は男女ともにいる。しかし日本では、男尊女卑の価値観が、無意識かつ無自覚に、目には見えにくい形で今なお残り続けていることもDV問題をより深刻化させている。
“暴君”ぶりを発揮する相手を選ぶ
私の父は、お酒を一定量飲むと突然怒りのスイッチが入り、般若のような顔で怒鳴り散らす“DV夫”だった。だから、離婚して母という攻撃相手がいなくなった後も、きっとどこかでかんしゃくを起こすに違いないと思っていた。しかし、不思議なことにその後、暴君ぶりはすっかり影を潜め、父は驚くほど穏やかに暮らした。つまり、性格的に怒りを我慢できないわけではなかったのだ。
ところが、20年の時を経て、ちょっとしたきっかけから、かつての暴君ぶりの片鱗を見せ始めるようになる。高齢になり兄に引き取られたものの、そのせいで半年後には兄嫁と決裂、兄宅を出たのだった。
「嫁は休日になると寝坊して、俺が起きているのに朝食をつくろうとせん!」
年老いた父の起床時間はとんでもなく早い。兄一家と同居するまではひとり暮らしをしていたのだから、嫁が起きてこないのなら自分がつくって食べればいいだけなのに、どうやら、主婦というものは夫や義父に仕えるのが当然と考えているようなのだ。