精神的暴力は後遺症を引きずる

「私から見れば、身体的暴力の被害はまだわかりやすくて、予後がいい」と、DV被害者支援団体「Saya-Saya」共同代表理事の松本和子さんは語る。

DV被害者支援団体「Saya-Saya」共同代表理事の松本和子さん
DV被害者支援団体「Saya-Saya」共同代表理事の松本和子さん(撮影=林美保子)

「でも、いろいろなことをコントロールされていた人は自分に何が起きているのかがわからないから、頭の中が混乱して予後が悪いのです。自尊心を取り戻して、自分の人生を生き直すまでに相当時間がかかる人もいます」

長期間のモラハラによる心の傷は、加害者から離れた後も、複雑性PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害。慢性的に繰り返されるトラウマ体験によって引き起こされる症状)などの深刻な後遺症を引き起こす。対人恐怖症になったり、加害者に似た背格好の人を見たり大声や怒鳴り声を聞いたりしただけでフラッシュバックを起こしたり、加害者に追いかけられる悪夢を見たりして、なかなか過去を断ち切ることができない。

前述のA子さんは離婚後、複雑性PTSDを患い、説教されたことを思い出すだけでも過呼吸になったり、吐き気をもよおしたりすることがあるという。

私の母も20年間のDV生活の爪痕は深く、うつ病や被害妄想、身体化障害(体の異常が認められないのに、痛みや不調などの自覚症状がある)など、晩年まで心も体も不安定な状態が続いた。

こうして、加害者が放った毒は被害者の心に浸潤していくのだ。

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