不動産を相続する時に懸念材料となるのが、売却できず管理コストだけがかかる「負の財産」だ。あす綜合法務事務所グループ代表の澤井修司さんの書籍『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)より、弟に託された実家を手放すことになった姉妹の事例を紹介する――。
実家に住む「末っ子長男」ががんを患う
先祖代々農家を営んできた田畑家。両親は亡くなり、長男の耕太が実家を継いで農業を続けていました。2人の姉、節子と操子は結婚して東京で暮らしていました。
耕太は独身でした。中国やフィリピンといったアジアからの「農村花嫁」が流行ったとき、仲介会社に仲立ちを依頼したこともありましたが、良縁に恵まれませんでした。
耕太は実家で一人暮らしを続けていましたが、がんを患ってしまいました。入院先に姉の節子が見舞いに来たときに、次のような会話をしたそうです。
「姉貴、俺が死んだら家のこと頼むね」
「何言ってるの。治るって先生言ってたわよ」
実家1000万円と預貯金1000万円、そして…
耕太は自分が結婚ができず、家を継いでくれる子どももつくれなかったことで、田畑家が途絶えてしまうことに大きな責任を感じていたのです。
それからしばらくして、耕太は亡くなりました。
残されたのは、実家の家屋敷と農地です。
実家の土地・建物の資産価値は1000万円ほどで、預貯金が1000万円ありました。農地はほとんど価値はありません。これを節子と操子が相続することになりました。
姉妹は何とか実家を残したいと思っていました。節子は耕太から「頼む」と懇願されていたので、なおさらです。