相続をきっかけに、家族の関係が崩れてしまうケースがある。あす綜合法務事務所グループ代表の澤井修司さんの書籍『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)より、仲の良かった兄弟にわだかまりや亀裂が生じてしまった事例を紹介する――。

兄弟2人で相続した実家を泣く泣く売却

滝田家では、長男の守が実家で暮らし、母のみどりを介護していました。守がそのまま家を継ぐことは、滝田家の暗黙の了解でした。

【図表1】滝田家のケース
出典=『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)

母のみどりが亡くなると、守と呉夫は遺産分割について話し合いました。とはいえ、守は「この家や財産を継ぐのは自分だ」と信じて疑わず、この話し合いも、「そのことをあらためて合意して、ハンコ代を渡す場」くらいに捉えていました。

しかし、呉夫は突然、「法律では、兄弟平等だよね」と言い出したのです。守ははじめこそ驚いたものの、欲張るつもりは毛頭なかったので、2人で均等に分けることに。結果として預貯金500万円は半分ずつ、自宅の不動産も半分ずつ相続して共同で保有することにしました。

ところがその数年後、呉夫が次のように言い出しました。

「兄貴、俺、今、失業中なんだ。貯金を切り崩して生活しているんだよ。子どもの学費もかかるから、実家の持ち分を買ってもらうか、一緒に売ってもらうわけにはいかないか?」

2人は何度も話し合いました。しかし、守にはさすがに買い取るだけの金銭的余裕はありません。かといって、呉夫の家族を路頭に迷わせるわけにもいきません。

2人は何度も話し合いを重ね、最終的には泣く泣く実家を売却することにしたのです。

「平等」のはずだが、モヤモヤが残る

「割り切れない」――これが相続でもめる大きな原因です。財産的にも、感情的にも、スパッと割り切れるケースは少数派かもしれません。

財産的に割り切れないものの代表格が、不動産です。お金なら簡単に分割できます。しかし、自宅など不動産はそうはいきません。この事例では、権利を2分割して相続しましたが、これは平等を絵に描いたようなやり方です。2人は裁判沙汰になったわけではなく、兄弟仲は今でも良好です。

しかし、守には割り切れない感情が残りました。