兄弟それぞれに立場と言い分がある

次男の呉夫は、両親のことは守に任せっぱなしで、「便りのないのはよい便り」とうそぶき、めったに帰省しませんでした。かたや守は、法要やお墓の管理、親戚付き合い、近所付き合い、地域の祭りのお手伝い、消防団など、さまざまな務めを果たしてきました。金銭的には平等な相続でも、それ以外の部分は必ずしも平等とは限りません。

お墓や仏壇などを守る「祭祀の承継」まで含めれば、必ずしも金銭で均等に配分することが平等とはいえないように思うのですが、法律では、祭祀の承継と遺産の承継を完全に分けて捉えています。祭祀を承継する人間に配慮して相続分を決めるという規定はありません。

ただし次男の呉夫からすると、「兄貴は大学に行かせてもらったじゃないか」「実家暮らしで家賃を入れていないだろ」といったように、不公平感を抱いているかもしれません。立場が違えば言い分も違うのですから、どちらが正しくてどちらが間違っているというわけではありません。

「寄与分」が認められるハードルは高い

このように、金銭的に完全に平等に分けたからといって、祭祀の承継を含めて、さまざまな面で必ずしも平等にはならないからこそ相続はややこしいのです。

ただ、守は母のみどりを献身的に介護していたので、「寄与分」が認められる可能性があります。寄与分とは、被相続人の事業を手伝っていたり、療養看護をしていたりといったことを行っていた場合、本来の相続分とは別に与えられるものです。

寄与分の金額は、相続人同士の話し合いで決めるのが原則ですが、折り合いがつかなければ裁判所による調停、さらには裁判所の判断を仰ぐことになります。

ただし、「自分も親を介護していた」という人は多いと思いますが、寄与分の要件は厳しく、現実的には寄与分が認められるケースはそれほど多くはありません(図表2)。

【図表2】親の療養介護が「寄与分」として認められるための主な要件
出典=『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)