2年前に夫に先立たれた75歳の女性は45歳の次男と二人暮らし。次男は大学を中退し、そのまま働かずにいる。女性は夫の遺族年金と自分の年金で計月19万円の収入があり、なんとか生活しているが、持っている預貯金3500万円を次男に残すために、自宅を売却したほうがいいか悩んでいる。相談を受けたファイナンシャル・プランナーの回答とは――。
暗い部屋で一人のシニア女性
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就活せずに自宅で過ごす生活はすでに二十数年間

ひきこもりの家庭にとって、親が亡くなった後にひきこもりをしている子供が生活していけるかは大きな心配事です。親の遺した資産で生活費を賄えるか、確認するためにファイナンシャル・プランナーを訪ねてくる高齢の親は少なくありません。私は、現在の家計状況やひきこもる子供の状態を伺って、親亡き後の家計状況をシミュレーションして対策をお話しています。

今回の相談者の家族構成
・母親:75歳(年金生活) 年金額229万円(夫の遺族年金と自分の年金の合計額)
・次男:45歳(無職)
※長男:47歳(会社員:結婚し別家庭)
資産
・預貯金:約3500万円
・自宅:戸建て持ち家

「次男に預金を遺すためにも、自宅は売却したほうがよいのでしょうか?」

今回の相談者は、次男(45歳)が働けないという75歳の女性です。どうやらかなり思い詰めた様子です。私は分析に入る前に、家族の状況を伺いました。

相談者は2年前に夫を亡くし、現在は一戸建ての自宅で、次男と二人暮らしです。上に長男(47歳)がいますが、すでに結婚をして別に家庭を持っています。長男は順調に大学を卒業すると大手企業に就職しました。現在も勤務を続け、今では妻と子供が2人おり、マイホームを購入して近隣に住んでいます。

一方、次男は首都圏の中堅私大(文系)に在学中から“登校拒否”になりました。筆者がこれまでに受けた相談案件の中には「大学の講義に興味が持てない」「卒業して就職することに意味が感じられない」といった理由で、子供が次第に大学から足が遠のき、フェイドアウト(中退など)してしまうケースはありました。

今回の次男も結局、就活をせずに自宅で過ごす状態がすでに二十数年間続いています。ただ、就職はできないものの、自室に閉じこもっているわけではなく、買い物の際は車を運転するなど何かと家のことを手伝ってくれます。父親は亡くなる前は病気で介護が必要な状態となりましたが、食事や排せつなど、介護を分担してくれました。

母親はしみじみと言います。

「下の子は本当にやさしいんですよ。夫の介護が始まってからは、家にいてくれないと困るようになり、もう無理に就職しろとも言えなくなりました。いずれは私も次男の世話になろうと思います」

「息子さんのおかげで、自宅でご主人を見送ることができたのですね」