相続した次男が自分で自宅売却できるかが最後の問題
母親は安心したようです。
「では、今のまま自宅に住み続けたほうが得なのですね。私もできれば、今の自宅に住み続けたいので、そのほうが良かったです」
「条件次第でシミュレーションの結果は変わってきますので、これだけで断定はできません。それでも相続した後にお子さんが売却するという方法は、相続税の節税効果もあり、親亡き後の生活設計の有効な手段となります。ただ、心配な点もあります」
「なんでしょう?」
母親は不安な表情を浮かべました。私は続けます。
「失礼ながら、相続したお子さんが売却できるか、ということです。売却できずにそのまま住み続けると、生活資金が不足してしまいます」
「一人では難しいですね」
「どなたかのサポートが必要です。お兄様の協力は得られそうでしょうか?」
「おそらく協力してくれると思います。兄弟仲は悪くありませんし、長男は、次男が生活できなくなって孫たち(長男の子供たち)に負担が及ぶのを心配していますので」
「それは心強いです。それでも、ひきこもりのお子さんは、引っ越しなど生活環境の変化が苦手な人が多いようです。特に長年住み続け、物が多いと消極的になってしまいます」
「う~ん、そうですね。その時にどう思うかは、まだわかりませんね」
「場合によっては、資金的な面や税金面で不利であっても、早めに転居をしたほうがよい場合もあります。すぐに決める必要はありませんので、息子さんとお話してみてください」
「はい。長男夫婦も含めて話をしてみたいと思います。でも、住み続けてもよいとわかって、少し安心できました」
「いろいろな要素が関わってきますし、条件次第で状況は変わります。損得を比較するだけでなく、ご家族が納得いく暮らし方を探してみてください」
結論は出ませんでしたが、それでも相談に来た時と違って、母親の表情は明るくなっていました。