――ここまで大規模なエキマチ一体のプロジェクトは前例がありません。
【武田】高輪ゲートウェイ駅の特徴である折り紙をモチーフにした屋根の形状にも、まちづくりを見越した思いが込められています。改札を出てすぐの場所に整備される「Gateway Park」の面積は、東京駅前の丸の内中央広場と同等の約6500平方メートル。その左右には、3月のまちびらきで開業する「THE LINKPILLAR 1 NORTH・SOUTH」の高層ツインタワーがそびえ、ビジネスやショッピングで多くの人々が行き交う活気あふれる空間を形成します。そんなにぎわいの中心部へと導くように、駅の屋根は広場に対して開くように上がっていくデザインとしているのです。まさに駅と街が一体となって新しい価値を生み出し続ける、象徴的な場所になるでしょう。高輪ゲートウェイ駅の将来的な乗車人数は、目黒駅や五反田駅と並ぶ1日当たり13万人程度を見込んでいます。
国内外からたくさんの方がお越しになると思いますし、あらゆる人が集まるからこそ、安全・安心にお過ごしいただくことを大事にしています。四つの街区をつなぎ、将来的には品川駅方面まで延びる歩行者デッキプロムナード「新東海道」は2階レベルの高さにあり、南北およそ1.1キロメートルの歩車分離の仕様です。歩行者と共存可能な自動走行モビリティーの導入など、回遊性や利便性の向上も図っています。
過去の震災の教訓を生かし「地域の防災力の向上」へ
――街の防災面では、どのような取り組みを進めていますか。
【武田】鉄道インフラ企業としての社会的責任を果たすべく、過去の震災の教訓を踏まえて着実に対策を重ねてきました。首都圏エリアを中心とした駅では、行政機関が指定する一時滞在施設に移動されるまでの一時的な滞在場所としてのご案内や、構造物の耐震補強対策なども行っています。
東日本旅客鉄道株式会社
マーケティング本部 まちづくり部門
品川ユニット
2004年入社、東京工事事務所にて中央線連続立体交差化事業、東京駅「グランスタ、サピアタワー等」「グランルーフ」、「高輪ゲートウェイ駅」などの設計や工事に携わる。17年より投資計画部で「戦略的新駅・将来構想」なども手掛け、19年より現部門で「TAKANAWA GATEWAY CITY」設計・工事発注・部外協議を担当。
TAKANAWA GATEWAY CITYが担う役割においても、「地域の防災力の向上」を重要なテーマとしています。事業継続計画(BCP)の一環として、当社が所有する発電所からの電力を3変電所を経由して受電する多重化された電源供給ルートを確保しています。防災センター、セキュリティーシステム、非常用EVなどの重要電源は、停電時にも電力が途絶えないようにバックアップ電源が機能する体制を整えます。災害時に万が一、外部からの電源が完全に遮断されたとしても、発電機などを用いて10日間ほどは街全体の消費電力量を賄える計算です。
「THE LINKPILLAR 2」の地下にある50メートルプール8個分に相当する国内最大級の蓄熱槽は、街のレジリエンス(回復力)を支えるエネルギーセンターとして位置付けています。ここで冷水、温水をつくり、地下の設備洞道を通じて街全体に効率的で環境性能の高いエネルギーを供給することで冷暖房エネルギーの削減に寄与します。災害時には、蓄熱槽の水を一時滞在施設等の非常用水として使用し、地域のBCPに貢献します。
――近年、激化する豪雨災害への対応はいかがですか。
【武田】街を計画するに当たってあらかじめ従前よりも1メートルほど高く造成工事を行っています。加えて、1階の全ての出入口に防潮板を設置。一次対策として建物内への浸水を防ぎ、二次対策として流入した水は最下層にある湧水層へ排水します。さらに三次対策として、地下にある重要な諸室の入り口にも防潮板を設けて流入を回避します。大雨災害で想定される水位に達したとしても十分に防げる設計としていますし、街での活動の中心が2階レベルですから、局地的大雨などの影響を最小限にとどめることができると考えています。有事には、「THE LINKPILLAR 1」「THE LINKPILLAR 2」「MoN Takanawa:The Museum of Narratives(モン タカナワ:ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)」の三つの棟の空間も活用して、1万人程度の帰宅困難者の受け入れを想定しています。
地域の皆さんと一緒に街をつくっていきたい
――イベントの開催などを通じて深めてきた地域との関係性は、防災においても力を発揮しそうですね。
【武田】2020年の高輪ゲートウェイ駅開業に続き、まちづくり計画の拠点としてこの地に事務所を開設しました。例えば地域の皆さんとホップを栽培してビールを作ったり、蜂蜜を収穫したりと、まだ街並みが形になる前から共同でいろいろなことに取り組んでいます。昨年3月と5月の「まちびらき前年祭」や、10月の「高輪地区まつり with TAKANAWA GATEWAY CITY」でも、皆さんと交流する中で、私たちのまちづくりに対してとても大きな期待を寄せてくださっていることを改めて実感しました。街の模型をご覧いただきながら、「こんなことができそう」「あんなことをやってみたい」と想像していただくことも含めて、「一緒に街をつくっていこう」という機運がしっかりと醸成され、ますます高まっていると思います。
ここはもともと車両基地があった場所で、それによって高輪エリア、芝浦・港南エリアが分断されていた側面があったと思います。それがTAKANAWA GATEWAY CITYのまちづくりで生まれる歩行者ネットワークにより、エリア全体の往来が活発になるでしょう。今後、THE LINKPILLAR 1の両側にある高輪辻広場、泉岳寺辻広場を使ったイベントなどの実施も計画中です。こうして街全体を使っていただき、地域の一員として普段からお付き合いしていくこと。そういう関係性があればこそ、非常時にも力を合わせて、危機への対応が可能になるのではないかと思います。
今年3月にいよいよまちびらき

「日本で初めて鉄道が走ったイノベーションの地」に誕生する「TAKANAWA GATEWAY CITY」。3月27日(木)のまちびらきでは、国際交流拠点にふさわしいハイグレードオフィスやコンベンション・カンファレンス施設を備えた「THE LINKPILLAR 1」と「高輪ゲートウェイ駅」の南改札および構内店舗が開業する。そして2026年春には、エネルギーセンターやオフィス、商業施設、ヘルスケア創造拠点を有する「THE LINKPILLAR 2」、街の文化・活動のシンボルである「MoN Takanawa:The Museum of Narratives」、各国の大使館の勤務者や外国人ビジネスワーカーにも対応した、国際水準の高層高級レジデンス「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」が完成し、グランドオープンを迎える。
街全体を「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置付け、新たなビジネス・文化、循環型社会のモデルなど、さまざまな社会課題の解決策を創出し世界に発信。「地球益」の実現を目指す。19年、まちづくりが進む中で、日本初の鉄道が開業した際の鉄道構造物である「高輪築堤」が出土。イノベーションの地としての記憶を継承すべく保存活用を計画し、27年度の現地公開を予定している。