外国人から見ると、日本人のプレゼンはユーモアがなく、退屈だという。グローバル化の中で、会話の中にジョーク一つはさめなければ、良質なコミュニケーションは取れない。「渋滞学」の研究者である西成活裕氏は「ビートたけしさんは、真面目な対談取材の場で終始笑わせてくれた。英語力を高めるためのユーモアの本質を学んだ気がする」という――。

「常に逆を行う」と物事はうまくすすむ

「渋滞学」を研究する東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕氏(撮影=原貴彦)

【三宅義和氏(イーオン社長)】西成さんと私が毎週一緒に稽古する心身統一合氣道は、非常に奥が深くて、気が滞っていると投げることができません。渋滞学と近いということをご存知で入られたのですか。

【西成活裕氏(数理物理学者)】私は工場の改善もかなり手がけていまして、その分野の私の師匠はトヨタ生産方式の有名な伝道者の一人なのです。その方が「現場は気だ。気の流れがわからないやつは改善できない」みたいな話をよくされていたので「気」に対する興味はもともとあり、それで参加しました。すると私が追い求めていた渋滞学と全く一緒で驚きました。常に逆を行わないといけない。

【三宅】投げようと思うほど投げられないですからね。

【西成】はい。渋滞学でも早く目的地につきたいといって追い越し車線を走行したり、スキー場のリフトに早く乗りたいからといって近いほうに乗ろうとすると結局、混んで遅くなったりする。無意識の中に逆をやる難しさがあらゆることの本質としてあって、達人になるとそれができるんです。

工場の改善もそうで、30秒に1個のペースでつくればいいところを「20秒で作れるようになった!」といって早くつくっても、在庫が増えてキャッシュフローを悪くしてしまいます。よかれと思って行っていることの多くは逆効果なのです。

歯医者さんしかできない仕事は8%しかない

【三宅】働き方改革が盛んにいわれていますが、経営者としては仕事量を減らすわけにはいかない。このあたり西成さんのお考えはいかがですか?

【西成】目的と手段を取り違えないようにしないといけません。働き方改革を目的にしてはダメで、何の目的なのかを考えてそこからブレークダウンしていくと、三宅さんのおっしゃる通り、仕事量を減らしてしまうと目的が達成できないかもしれません。ようは企業としての目的も達成したい。だけど従業員の大変さも減らしたいわけですよね。では大変さとは何かというと仕事の「密度」なんです。密度こそが人が感じる「負荷」。仕事の量を減らすのではなく密度を減らすことを考え出すとまったく異なるソリューションが出てきます。

【三宅】期間を長くするということですか。

【西成】期間を長くしてもいいのですが、もっとよいのは組織のなかでの負荷分散です。いろんな企業を見ていると、忙しい人はだいたい決まっています。工場でも特定のスキルを持っている人のところに負荷が集中して周囲は意外と暇だったりします。それは仕事が属人化してしまうからなのですが、属人化こそ改善の敵です。

口腔外科の研究をしている友人から聞いた話で、歯医者さんの業務全体で手術や診察など医師にしかできない仕事が占める割合は8%しかないそうです。つまり92%は誰でもできる。だから歯科者さんは比較的、負荷分散が進んでいて、昨日入ったばかりのアルバイトがチャカチャカ仕事をして、「先生どうぞ」みたいにしていますよね。

【三宅】いかに仕事を切り分けるか、ですね。

【西成】はい。普通の感覚だと「医師の仕事なんて手伝えない」と思いますが、そういう先入観をまず取り払ってみるとアイデアが湧いてくると思います。たとえば経理の社員でも機械の操作ができるようにしておくとか。社内にミニ・マニュアルをたくさん作って誰でもその業務をこなせるようにしておくとか。いわゆる多能化です。みんなが、いろんなことをちょっとずつできるようにしておくと仕事の量を減らすことなく現場の負担を下げることができます。

【三宅】非常に参考になります。