バックワード・マッピングの広範な影響力
バックワード・マッピングが政治の世界で使われた例は多数ある。湾岸戦争を支持する国際的な連合を築いたジェームズ・ベーカー元国務長官の動きは、「順序づけの見事な実例だった」とラックスは言う。「ブッシュ政権が最初から議会に話を持っていって、イラクとの戦争を承認するよう求めていたら、議会は拒否していただろう。しかしベーカーは、まず穏健なアラブ諸国の支持を、次いで他のアラブ諸国の支持を固めることによって、ヨーロッパ諸国の支持を勝ち取ることに成功した。それから、アジアやアフリカの国々も味方に引き入れた」。
バックワード・マッピングはビジネスの世界でも同じく重要だ。提携関係を築こうとしている場合であれ、機密情報を管理しようとしている場合であれ、対立する恐れのある相手に対処しようとしている場合であれ、同じ基本的な洞察が適用できる。当事者以外の関係者の合意もしくは承認が必要となる交渉はどれもみな──当事者間のやりとりだけに見えるものであっても──多数の関係者間の交渉という観点から組み立てることができる。つまり、他の人間を論議に参加させることで、自分の求めるものを獲得する公算を大幅に高めることができるのだ。
バックワード・マッピングは、次の3つの基本的なステップで構成される。
(1)現在の当事者だけでなく参加の可能性のある他の関係者も含めた「交渉マップ」を作成する
02年の協約交渉の準備をするにあたり、ミニアチは現在のPMA理事と組合だけでなく、味方になってくれそうな個人や集団も含めた交渉マップを作成した。この交渉マップを手に、ミニアチはPMA理事会の再編について承認を得るとともに、より高度な情報技術になぜ関心を持つべきなのかをPMAメンバーに理解させる作業に取りかかった。
また、ウォルマート、ホームデポといった大手小売企業にアプローチして、港湾の情報技術がこれらの企業の収益性にどのように影響するかを説明した。政府機関にも出向いて、アメリカの財の流れにおける海事産業の重要性を説明し、今回の協約交渉がなぜ重要なのかを理解させた。
さらに、広報の専門家を雇って、PMAの立場を広く世間一般に伝えた。これらの集団の影響力を利用することによって、PMAは組合が新技術の提案を拒否しにくい状況をつくり出すことに成功したのである。